働き方 日産「ゴーン改革」から学ぶべきポイント
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「本質的な改革しなければ、ファッションで終わる」

日本企業の多くは、今こそゴーン氏の改革から学ぶべきだ――と指摘するのは、ダイバーシティーの推進と女性リーダーの育成支援などに努めるNPO法人、GEWELの村松邦子代表理事だ。
女性の採用や昇進に向けた取り組みを促す女性活躍推進法が昨年4月に施行され、大企業は、採用時の男女比率や女性管理職の割合などの数値目標を掲げた行動計画を策定することが義務付けられた。「法律ができて環境は整いつつあるのに、働く女性たちはモヤモヤしている。企業の多くが『行動計画を出せばもう終わり』と思っているフシがあるからだ」と、村松さんは国内企業の状況に苦言を呈する。「女性活躍(の推進)はこれで十分。次は働き方改革だ」などと早々に終了宣言する企業が目立つためだ。
「ゴーンさんは本気のダイバーシティー経営で企業文化まで変えた。本質的な改革をしなければイノベーション(革新)の効果を生み出すところまで行かず、ファッションで終わる。経営者は日産の成果から学ぶ必要がある」と村松さんは言う。とりわけ、村松さんは業務改善や社員の自律、成長へのモチベーションといった「目に見えない文化」の刷新に注目すべきだと指摘する。「日本型企業は指示・命令で動く社員を育成するが、ダイバーシティーの力を生かすには自律した働き方のできる社員が必要。日産はキャリア教育も行い、一人ひとりが『自分のキャリアは自ら築く』という意識を持つ支援をしてきた」
多様な個性を尊重しつつ、一つのゴールを目指すダイバーシティー経営がグローバル化時代の強みになると、日産の全社員が実感する事件が11年にあった。同年3月の東日本大震災で福島県いわき市の工場が被災。10月にはタイの大洪水で現地工場が操業停止に追い込まれた。だが、本社の指示を待たずに現地が主体的・自律的に動き、迅速に工場を再開させたのだ。
「大混乱のなかでもリカバリーは早く、変化に対応する力がついていた。『変化に耐える力こそが本当の強さだ』とゴーンはいつも言っていたが、その力がついたと社員全員が自信を持った。ダイバーシティーを推進してきたからだと実感した」。先に紹介した、日産のダイバーシティ・デベロップメント・オフィスの室長である小林さんは、そう胸を張る。
ゴーン氏から引き継いだ
「ゴーンさんは時間をかけて組織を変えた。倒産寸前の企業を再生し、ダイバーシティーが競争力の源泉になると証明した」と村松さんは言う。
国内市場も労働力人口も縮小に向かうなか、女性をはじめ多様な人材の活用はすべての企業に待ったなしの課題だ。「多様性のない、モノカルチャーな組織はリスクマネジメント(危機管理)の面でも弱い。社会の変化や新たなリスクを見落としやすいからだ。グローバル化に対応していくうえでも、日産の経験は多くの企業にとって示唆に富む」と村松さんは指摘する。

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