ビジネスに通じる「プレゼン術」は一流科学者に学べ

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

iPSの山中伸弥さんは落語家・鶴瓶に師事

プレゼン技術を磨き続ける山中伸弥さん
プレゼン技術を磨き続ける山中伸弥さん

 さて、20人を超える日本人ノーベル賞受賞者の中で、最もプレゼンにたけた科学者は誰だろうか? その筆頭にあげたいのは、12年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥さんである。

 山中さんの講演は何度も聴いているが、とにかく話がたいへん上手だ。iPS細胞の話から脱線を始めると、さらに面白くなる。関西人らしく、笑いのツボを押さえていて、漫談家になっても食べていけるのではないかとさえ感じる。「天は二物を与えた」と感心するほどだ。

 だが、山中さんのプレゼン力は、生まれつきの才能というわけではないらしい。高い技術の陰には指導と努力と、その双方の継続があるようだ。

 山中さんは、1990年代の米国留学中にプレゼンテーションの授業を受講し、徹底した指導の下で、伝えるためのさまざまなスキルを身につけたのだという。

 ノーベル賞を受賞した後も、プレゼン技術を磨く努力を続けている。落語家の笑福亭鶴瓶に師事したこともあるそうだ。読売新聞社が主催する「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」にも昨年9月に登壇いただいたが、その時も自分の講演をビデオ撮影し、後でプレゼンの専門家に見てもらって指導を受けたと聞く。

 山中さんは、米マサチューセッツ工科大メディアラボ所長の伊藤穣一(じょういち)さんと共著で『「プレゼン」力』(講談社)という本を出している。山中さんが、なぜあれほど講演がうまいのか、その技術の秘密が紹介されているので、関心がある人はぜひ手にとってみてほしい。

 この本を読めば、「もし山中さんがプレゼン下手だったら、この世にiPS細胞は生まれていなかった」という驚きの事実もわかるはずだ。プレゼン技術の重要性を再認識させられる本だと言えるだろう。

「情熱」込めた講演が人の心を動かす

 もっとも、特別なプレゼン技術ばかりが、聞く人をひきつけるわけではない。技術以上に重要なものは、語り手の「情熱」だ。

講演に情熱を込める高橋政代さん
講演に情熱を込める高橋政代さん

 科学誌ネイチャーは2014年、iPS細胞を使った臨床研究を世界で初めて行った理化学研究所プロジェクトリーダーの高橋政代さんを「世界を動かした10人」に選んだ。高橋さんは、今や日本を代表する女性科学者と言っていい。

 筆者は11年秋に初めて高橋さんの講演を聴いたが、医学分野で基礎研究と臨床応用をつなぐ研究の重要性を力強く、熱い思いを込めて語っていた。講演者の情熱には、心を打つ大きな力があることに気づかされた。高橋さんのプレゼンは、その年に聞いた中で最も印象に残る講演だった。

講師としてひっぱりだこの出雲充さん
講師としてひっぱりだこの出雲充さん

 食糧やエネルギー源として期待されるミドリムシの大量培養に成功した「ユーグレナ」社長の出雲(みつる)さんは、ベンチャー企業経営者の中で最も人気のある講師の一人で、あちこちで講演を依頼されることが多い。出雲さんは、もともと農学を専門とする科学者だ。

 出雲さんの講演は、後半になるにつれて次第に熱を帯びていく。一番の聞きどころは、ミドリムシの培養に道をつけながら、買い手が見つからずに苦労した過去の経験談だ。

 「ミドリムシはこんなにすごいのです。ぜひ買ってください――」。出雲さんが声をからして営業に回っても、どの会社も相手にしてくれない。それでも地をはうように営業を続け、500社目に訪問した商社でようやく、売り込みに成功する。

 門前払いされても、あきらめずにミドリムシの可能性を訴えた続けた努力には、頭が下がる思いがした。私と一緒に講演を聴いた茨城県庁の科学技術担当者も、「心を揺さぶられた」と感想を漏らしていた。

 16年度版科学技術白書によると、15年度政府当初予算における科学技術関係予算は3兆4776億円にのぼる。高額の研究費を負担する納税者の理解を得るため、省庁の担当者を説得して、さらに追加の資金を獲得するため、「伝える能力」は科学者にとってますます重要になっていく。

 まずは、優れた成果を上げること。工夫をしてわかりやすく説明すること。適切な指導を受け、努力を続けること。情熱を持ち続けること――。それが、現代の一流科学者の条件であり、ビジネスマンにも共通して求められる資質だろう。

【あわせて読みたい】
受験生必読! 「東ロボくん」に学ぶ成績向上のワザ
30年目の「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」(上)
30年目の 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」(中)
30年目の 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」(下)

プロフィル
芝田 裕一( しばた・ゆういち
 読売新聞調査研究本部主任研究員。専門分野は科学、テクノロジー。ロンドン特派員、科学部次長を経て現職。地震災害対策や先端医療、ものづくりの技術など、科学技術分野の幅広いテーマに関心がある。「読売テクノフォーラム」と「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」を担当している。

1

2

3

無断転載禁止
430253 0 深読み 2017/06/23 05:20:00 2017/06/23 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20170622-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

おすすめ記事

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ