有毒「ヒアリ」、パニックを防ぐ三つのポイント
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その痛みは、火のついた線香を押しつけられたように強烈だという。腹部末端の毒針で人を刺す「火蟻 」こと南米原産のヒアリが東京港や大阪港、名古屋港などで相次いで見つかり、環境省などが調査している。体長わずか数ミリだが、刺されると激しく痛み、腫れなどの症状が出るほか、死に至ることもある。繁殖力が強く、国内定着も懸念される。しかし、むやみに恐れるばかりでなく、正確な情報を持つことが大切だ。アリの研究者で、ヒアリに何度も刺された経験を持つ村上貴弘・九州大准教授が解説する。
まずは落ち着き、正確な情報を

5月26日、兵庫県尼崎市のコンテナからヒアリが発見されました。その後、神戸港、名古屋港、大阪港などでも見つかり、7月6日には東京港でも1匹が見つかったと発表されました。一度に数十匹から百匹単位で発見されたとの報告もありました。
いずれも、中国南部がヒアリの供給源と推定されております。今後、さらに調査を行い、ピンポイントで供給源を特定し、国際協働で対策を練っていく必要があると思います。
ところで、今回のヒアリに関する世間の反応は、研究者の私にとっては想定外で、パニックに近い過剰反応に見える部分もあります。ここでは、ヒアリの脅威というより、「生態を知った上で、もう少し冷静に対処していきましょう」ということを書きたいと思います。
【ポイント1】冷静に対処しましょう。アメリカでのヒアリによる致死率は0.001%です
まず重要な点は、ヒアリに刺されたら重症になり死に至る……というような可能性は、非常に低いということです。
アメリカのデータですが、ヒアリが侵入した地域で住民の50~90%が刺され、刺された人の1~2%がアナフィラキシーショックを発症しています。アナフィラキシーショックとは、ごく微量のアレルギー原因物質(アレルゲン)に対して、生死に関わるような重篤なアレルギー反応を示す状態をいいます。
実数をおおまかに示すと、全米で約1000万人が刺され、10万人がアナフィラキシーショックを起こし、100人が亡くなっています。つまり、ヒアリに刺されたことで死に至る確率は0.001%(10万分の1)と低い値なのです。


大きな問題は、ヒアリがある地域に定着すると、住民の大半に当たる50~90%もの人が刺されてしまうことです。
今のところ、日本国内でヒアリが発見されたのは、ほぼ港湾施設に限られていて、現状では一般の人が刺されたあとの対処を考える必要はあまりないと思います。ただ、台湾や中国南部、中南米などを旅行してヒアリに刺された場合に備え、応急処置について説明しておきます。
ちなみに私はこれまでテキサス、台湾、フロリダ、パナマ、ベネズエラ、アルゼンチン、メキシコで合計60回程度ヒアリに刺されていますが、危険な症状が出たのは、台湾で刺された1回とアルゼンチンで大量に刺された際の「最後の一刺し」の2回だけでした。
ヒアリに刺されても、手ではらうのはやめましょう。ミツバチと違い、ヒアリは何度も毒針で刺せます。払いのけようとした手も刺されてしまう危険があります。手ぬぐいやタオルで叩いて落とす方がよいと思います。
刺された所はミネラルウォーターや水道水などで洗います。水洗いだけでも、毒成分の一部を除去したり、他の雑菌の侵入を防いだりすることができます。
患部は、数時間で
刺されて数時間は安静にしましょう。その間に、めまい、吐き気、
繰り返しますが、ヒアリに刺されて重篤なアナフィラキシーショック症状を起こすのは全体の1~2%、致死率はさらに低い約0.001%です。たとえ刺されたとしても、パニックにならずに冷静に対応すれば、重症化を防ぐことは十分可能です。
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