有毒「ヒアリ」、パニックを防ぐ三つのポイント

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【ポイント2】ヒアリ駆除は初期対応が重要。各国の事例から学びましょう

ヒアリの好む場所は写真のような開けた砂地もしくは草地です。この写真は台湾・桃園の畑地です
ヒアリの好む場所は写真のような開けた砂地もしくは草地です。この写真は台湾・桃園の畑地です

 ヒアリは1930年代にアメリカに侵入・定着した後、カリブ海、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、中国にも侵入し、定着しました。

 その中で、アメリカはもっとも対応を誤ってしまった国です。

問題点として、(1)初期対応をほとんど行わなかった(2)定着後の対策を真剣に検討し始めたのが30年後と遅かった(3)レイチェル・カーソン著「沈黙の春」でヒアリの被害が過小評価され、DDTやBHCなどの強力な殺虫剤を使えない状態になった(4)南米では天敵となっているノミバエを使った生物防除の大規模実証研究もしているが、有効な手段になっていない――ことが挙げられます。

米フロリダ州ゲインズビルの公園。これらの場所で作業をする場合、長靴とゴム手袋が必携です。私は2017年5月にメキシコ南部のアカコヤグアという村の牧場で聞き取り調査をしたときに、油断してサンダルのままヒアリの巣に足を踏み入れてしまい、一瞬で10か所も刺されてしまいました
米フロリダ州ゲインズビルの公園。これらの場所で作業をする場合、長靴とゴム手袋が必携です。私は2017年5月にメキシコ南部のアカコヤグアという村の牧場で聞き取り調査をしたときに、油断してサンダルのままヒアリの巣に足を踏み入れてしまい、一瞬で10か所も刺されてしまいました

 現在、アメリカでは年間5000億~6000億円のヒアリによる経済被害が出ています。その内容は、農作物の食害、電気設備の配線が食い破られる、公園などにコロニーが営巣される、敷地内に巣を作られた場合の不動産価値の低下などです。

 ちなみに、「巣」は基本的に一つの集団が共同生活のために作る構造物を指し、「コロニー」はアリなどの昆虫の集団全体を指します。

 ヒアリが巣を作って定着すると、駆除は困難になります。時間が()つほど環境に適応できるようになり、働きアリの数も増えてきます。次のステップとして、新たに女王アリを生み出すようになれば、新しい巣を周辺に作るようにもなります。

 一方、オセアニア2か国は、対応が分かれました。

アルゼンチンのフォスドイグアスの道路脇のヒアリの巣がある場所
アルゼンチンのフォスドイグアスの道路脇のヒアリの巣がある場所

 まず、ニュージーランドでは2001年、オークランドの空港そばの敷地でヒアリの巣が発見されました。その後、同国の農務省は迅速に対策チームを結成し、殺虫剤を使ったコロニー駆除のほか、発見場所から1キロ圏内を「定着ハイリスクエリア」に設定し、徹底したモニタリングを行ったほか、5キロ圏内を「要注意エリア」として調査しました。その結果、03年の夏までに根絶宣言を出すことができました。この作業にかかった費用は約1億2000万円でした。その後も複数回、同国内の港でコンテナ内からヒアリが発見されましたが、いずれも定着する前に駆除されています。

 オーストラリアでも01年、ブリスベンで定着が確認されました。ニュージーランドに比べると定着した巣の数が多く、駆除は難航しましたが、迅速に「ヒアリ根絶国家プログラム」を発動し、6年後の07年にはブリスベンに定着したヒアリの99%を駆除できたと発表しています。しかし、残りの1%は現存しており、いまでも繁殖の危険性をゼロにできていません。また、14年と15年にも侵入が確認され、継続的に予算をつぎ込んでおり、この15年間で270億円を費やしています。

 上記2か国の対策の違いは、非常に参考になると思います。

ニュージーランドで発見されたヒアリの巣は定着後半年から1年以内と推定され、コロニーの数はわずか一つでした。このケースでは根絶が可能でした。しかしながら、オーストラリアのブリスベンでは巣が複数同時に確認され、ニュージーランドよりも大規模な根絶プログラムを発動したにもかかわらず、根絶できませんでした。かかった費用もニュージーランドの約200倍以上でした。いかに初期対応(定着前に発見すること)が重要か分かると思います。

「探索犬」も

 アジア各国・地域の状況も紹介しましょう。

 お隣りの台湾には04年、ヒアリが侵入・定着しました。台湾も国家紅火蟻防治中心(National Red Imported Fire Ant Control Center)を迅速に設立し、台湾政府のプロジェクトとしてヒアリの根絶を進めています。08年の報告では、桃園で88%、嘉義では94%を駆除できたとしています。台湾では「ヒアリ探索犬」を育成するなどユニークな取り組みをしていますが、それでも根絶には至っていません。09年当時、台湾では年間約2億円の予算を計上していました。

 中国も04年、深●(土へんに川)市にヒアリが侵入・定着し、その後、急速に分布範囲を広げています。07年の報告では広東省、広西チワン族自治区、湖南省、福建省、江西省まで拡大していました。中国では駆除対策のみならず、ヒアリについての基礎研究も行っており、13年には少なくとも95本の研究論文が報告されたことが明らかになっています。ただ、中国でも根絶されたという報告はなされていません。

 以上のように、これまでヒアリの侵入・定着が見られた国と地域で、「根絶に成功した」と言えるのはニュージーランドのみです。繰り返すようですが、初期対応の違いで大きく結果が違ってきます。

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