犯罪者を遠ざける、子どもに安全な場所の作り方

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不審者をあぶりだすオレンジのライン

神奈川県藤沢市の小学校の敷地内に引かれた誘導線
神奈川県藤沢市の小学校の敷地内に引かれた誘導線

 犯罪機会論が普及していない日本だが、私のアドバイスを取り入れて、全市的に広まった例もある。藤沢市の小中学校は、校門から校舎玄関(受付)まで地面にオレンジ色のライン(誘導線)が引かれている。病院の廊下にあるカラフルなナビラインに似ている。

 多くの学校では、侵入者への対策として、「校長の許可なく立ち入り禁止」とか「ご用のある方は受付にお寄りください」といった注意書きを校門に掲示している。しかし、こうした掲示を読んでも、犯罪者は侵入をあきらめたりはしない。

 侵入するかどうかの判断基準は、「見つかったときに言い訳ができるかどうか」だ。前記の掲示なら、子どもに近づいているとき教職員に見つかっても、「受付に行こうと思ったのですが、道に迷ってしまいました」などと言い訳ができてしまう。おそらく、とがめを受けることもないだろう。

 だが、藤沢市の小中学校では、そうはいかない。受付までのラインを歩いていれば、道に迷うことは絶対にない。だから普通、来校者はラインの上を歩く。そのため、ラインから外れただけで、それを「不審な行動」と見なすことができる。「道に迷ってしまいました」などと言い訳はできない。しかも、ライン上を歩いているかどうかは子どもでも分かる。

 要するに、言い訳しにくい(すぐにバレそうだ)と犯罪者に思わせる学校は、心理的に「入りにくい場所」なのである。低コストながら、高い防犯効果が期待できる対策だ。

 先述のように海外では、まちづくりのデザインで犯罪を防ごうとする取り組みが活発だ。こうした取り組みを、日本もそろそろ参考にすべきではないだろうか。そのためにはまず、景色を見て、その場所の危険性を見抜く習慣を身につけることが大切である。「入りやすいか」「見えにくいか」という視点で周囲を見渡せば、そこが安全か危険かを景色が教えてくれる。景色は「忠実なメッセンジャー」なのだ。

 私は、このように景色が放つメッセージを感受する力を「景色解読力」と呼んでいる。暗号を解読するかのように、景色を解読できれば、危険を予測して回避することが可能になる。筆者が提唱する「地域安全マップづくり」や犯罪者にとって入りやすく見えにくい場所を警戒する「ホットスポット・パトロール」も、この景色解読力に直結する取り組みだ。

 一人ひとりの景色解読力が高まれば、日本でも犯罪機会論が普及し、犯罪を起こりにくくする「場所づくり、環境づくり、まちづくり」が自然に進むようになるに違いない。

【あわせて読みたい】
・「実は、交通事故より多い家庭内の死亡事故」
・「逃亡犯らの顔を描く「プロファイル画」の世界」
・「公園も大声禁止、遊び場を追われる子どもたち」

プロフィル
小宮 信夫(こみや・のぶお)
 立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)。公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」 http://www.nobuokomiya.com

写真でわかる世界の防犯―遺跡・デザイン・まちづくり(小学館)
写真でわかる世界の防犯―遺跡・デザイン・まちづくり(小学館)

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429307 0 深読み 2017/08/14 09:30:00 2017/08/14 09:30:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20170802-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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