戦後レジームの曲がり角、ドイツ連邦議会選の衝撃

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過去との対決を疑問視

 ドイツ政府は2005年、ナチスによるホロコーストの犠牲となったユダヤ人のための慰霊モニュメントをベルリン中心部に建設した。AfDのテューリンゲン支部長は、「我々ドイツ人は、首都の真ん中にあのような恥ずべき慰霊碑を建設する世界で唯一の民族だ」と公言した。

 これは、ナチスドイツの過去と批判的に向き合い、犠牲者に謝罪し続ける戦後ドイツの姿勢に、真っ向から反対する危険な思想だ。

 さらに、AfDの首相候補ガウラント氏は9月10日、メルケル政権で外国人の社会への融合を担当していたトルコ系ドイツ人の官僚(SPD党員)について、「アナトリア(トルコ東部)へ連れて行き、“処理”したらいい」という過激な発言を行った。この暴力的な内容の発言に対し、ドイツの検察庁は捜査を開始している。

 AfDは、旧東ドイツを中心とした極右市民団体ペギーダ(先進国のイスラム化に反対する愛国的ヨーロッパ人)とも接点を持っている。

 問題は、この過激政党が社会の中で受け入れられつつあることだ。

 これまでドイツの極右政党は、大半が泡沫(ほうまつ)政党だった。州議会に議席を持つことはあっても、内紛によって表舞台から消えていった。だがAfDは違う。彼らは、ネオナチのような社会の少数派だけではなく、メルケル氏ら政界のエスタブリッシュメントに対して不満を持つ中間層にまで食い込んでいる。

 CSUに属する私の知人は、今年1月にこう予言していた。

 「旧西ドイツにも、AfDの隠れ支持者が多い。彼らは世間体を考えて、AfDを支持していることを口に出さないが、メルケル首相を嫌っている。次の選挙で、メルケル首相は厳しく罰せられるだろう」

 彼の予言は現実となった。

メルケル時代の「終わりの始まり」

 SPDが下野する道を選んだ背景には、AfDが野党第1党になることを防ぐという意味もある。そうなると、メルケル首相には、中道保守の自由民主党(FDP)と中道左派の環境保護政党「緑の党」と連立する以外に、議会で過半数を得る道は残されていない。

 この組み合わせは、これらの政党のシンボルカラーがジャマイカの国旗に使われている黒(CDU・CSU)、黄(FDP)、緑(緑の党)であることから、「ジャマイカ連立」と呼ばれている。だが、各党の政策の違いは大きく、連立への道は険しい。

 例えば緑の党は、温室効果ガスの排出量を減らすために、30年までに石炭・褐炭火力発電所を全廃し、化石燃料を使う車の認可を禁止することを求めている。ドイツ企業の国際競争力を重視するFDPとCSUは、この政策に全面的に反対している。

 連立交渉はこれから本格化するが、大連立の時代と比べて、メルケル首相の指導力が低下することは避けられない。今回の選挙は、メルケル時代の「終わりの始まり」となるかもしれない。

 メルケル氏が4期目の任期を全うすれば、これまで最長期間、首相を務めたヘルムート・コール氏(在任1982~98年)と並ぶ。89年にベルリンの壁が崩壊するまで社会主義国である東ドイツで人生の大半を過ごし、コール氏に見いだされたメルケル氏は、元々CDU内では主流派ではなかった。

 メルケル氏が後継者を育てなかったことは、彼女が首相の座に長く居座ることを可能にしたが、ドイツにとってはアキレス腱(けん)でもある。彼女の後継者となれる力量を持つ政治家は、CDU・CSUには今のところ見当たらない。

 リーマン・ショック、ユーロ危機、ウクライナ危機、難民危機と立て続けに起きた難局に対処し、欧州政界で最も豊富な経験を持つ「女帝」の後継者探しは、困難を極めるはずだ。これまで、欧州の中で比較的高い安定度を保ってきたドイツも、今後は不透明感が強まるのは避けられない。

 今回の選挙は、ドイツ政治史の「大激震」として記憶されることになるだろう。

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プロフィル
熊谷 徹( くまがい・とおる
 在独ジャーナリスト。1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。90年以降、フリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に住み、ドイツ情勢のほか、欧州全体の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材を続けている。著書に『偽りの帝国 緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(文藝春秋)など。筆者ホームページは こちら


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428497 0 深読み 2017/09/28 05:20:00 2019/02/06 17:00:03

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