完了しました
――銭湯絵ならではの難しさはありますか。

銭湯の天井は高さ5メートル以上あり、はしごに登って描くので危険な作業になります。また、とても大きな絵を壁に近づいたまま描くため、構図が取りにくいのが難しい点です。さらに、銭湯の営業に影響しないよう、主に休業日の一日で一気に描きあげる必要があります。大きな作品だと、仕上げるのに丸1日がかりということもあり、時間との勝負になります。
どんな絵を描くかは、銭湯側のリクエストに応じたり、絵師にお任せであったりと様々です。これまで東京スカイツリーを浮世絵風に描いたり、赤く輝いた富士山や「ゆるキャラ」を描いたりするなど、様々な作品に挑戦してきました。自己表現の場ではないと思っているので個性的であるかは気にしていませんが、男湯からも女湯からも見える位置に富士山を描きたいなどのこだわりはあります。
――企業と共同で作品を制作するなど、新たなアプローチが注目を集めています。
仕事は年間40~50件で、始めた頃は6~7割は銭湯からの依頼でしたが、最近ではそれが5割程度になり、代わって宿泊施設にある浴場の壁面やスーパー銭湯などで絵を描く仕事が増えました。
広告料で費用を賄い、銭湯絵を描く新しいビジネススタイルへも挑戦しています。銭湯ファンの方などと「銭湯振興舎」というグループを作り、メンバーが銭湯周辺の飲食店などに営業をかけて広告をいただき、それを元手に銭湯絵を描くというスタイルです。昔の銭湯絵師は広告会社に所属し、広告費で銭湯絵を描いていました。その下に近所の床屋さんや歯医者さんの広告などを描いていました。昔のビジネススタイルの復活を目指しているともいえます。
企業と共同での仕事もしています。銭湯の壁に自動車会社の広告のために車を描いたり、旅行会社のカナダツアーの宣伝用にロッキー山脈を描いたりしました。10月1日から放送が始まった日本たばこ産業(JT)のコマーシャルにも出演し、銭湯で富士山の絵を描くシーンが使われています。
――これからは、どんな活動をしていきたいですか。

銭湯でしか出せない人間関係や空気感があると感じています。12月3日まで、東京都文京区の6軒の銭湯をギャラリーとして使い、6人のアーティストが作品の展示などをする「銭湯ミュージアム 6人の作家展」を開催しています。私は小学生が銭湯に飾る絵を描くワークショップを行いました。こうした活動を通して銭湯の魅力をもっと広めていきたいです。2020年の東京五輪に向けて日本を訪れる外国人観光客が増えています。こうした人たちが利用する宿泊施設の浴室にも絵を描く仕事もしています。海外の人にも銭湯の魅力や楽しみ方を知ってほしいです。
