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「まるでSF!」人生100年を楽しく生きる技術

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健康寿命を延ばす「ヒューマン・エンハンスメント」

 ヒューマン・エンハンスメント技術の起源は、「クローン」という言葉の生みの親でもある、英国の生物学者、ジョン・バードン・サンダースン・ホールデン氏が1923年に著書『ダイダロス、あるいは科学と未来』で示した「トランスヒューマニズム(超人間主義)」の思想にあるといわれる。

リオデジャネイロパラリンピックで8メートル21の大跳躍を見せたマルクス・レーム選手
リオデジャネイロパラリンピックで8メートル21の大跳躍を見せたマルクス・レーム選手

 具体的には、遺伝子工学、ナノテクノロジー、ロボット工学をはじめ、分子生物学、脳神経科学、生殖工学、サイバー技術など、様々な科学を駆使して人間の身体能力や知的能力を強化し、「人間の限界」を超越しようという試みだ。

 2012年のロンドン五輪・パラリンピックはヒューマン・エンハンスメント技術が注目される大きなきっかけとなった。

 両脚が義足のオスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)が、パラリンピックではなく五輪の4×400メートルリレーに出場した。

 さらに、ロンドンパラリンピック走り幅跳びの金メダリスト、マルクス・レーム選手(ドイツ)は、右脚が義足であるにもかかわらず、15年に8メートル40センチという、ロンドン五輪の優勝記録を9センチも超える記録をたたきだしたのである。

 このように、陸上競技の世界では、義足の技術の進歩により、障がい者と健常者が同じ土俵で戦える時代が近づいている。そして、それは人々の日常生活にも広がろうとしている。

 例えば、ソニーコンピュータサイエンス研究所(東京)が開発した「ロボット義足」は、足首の部分にモーターを搭載し、地面を蹴って前進する力をモーターがバックアップし、着地から蹴り出しまで、自然な歩行を実現できる。

 義足をつけている場合、着地の衝撃が伝わり腰痛などになりやすいとされるが、ロボット義足なら腰への負担も軽減され、歩きやすくなるという。

 現在はモーターの小型・軽量化という目標を掲げ、障がい者がさらに歩きやすくなる義足の開発も進められている。今後は、高齢者の歩きにくさや脚の痛みを解決するツールも登場するに違いない。

 遺伝子工学によるアプローチも活発だ。青年期以降、年齢とともに増える体の不具合の多くは老化が原因だ。米ワシントン大の今井眞一郎教授は、人間が本来持つ「抗老化遺伝子」とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」を活性化させるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の研究を進めている。

 マウスによる実験では、NMNを投与すれば、年をとっても筋力が低下せず、運動量も減少しないことが確認された。今井教授によると、NMNを実用化できれば、人間でも加齢による身体の老化を防ぎながら、120歳まで寿命を延ばせる可能性があるという。まるでSFのような話である。

 また、NMNには認知症を予防する効果も期待できるという。

 老化によって「体を動かしたい」「他人と接したい」という気持ちが低下するといわれるが、これには自律神経などを司る脳の「視床下部」の機能が影響しているという。

 近年の研究で、認知症は運動で防ぐことができると明らかになりつつある。NMNは視床下部にも作用するといわれ、「体を動かしたい」という意欲を維持でき、筋力低下も防げる。つまり、高齢者が積極的に運動するようになり、認知症予防につながるという。

ロボット開発のサイバーダイン(茨城県つくば市)が開発した医療用ロボット「HAL」。人の筋力などをサポートでき、パワード・スーツへの発展が期待される(サイバーダイン提供)
ロボット開発のサイバーダイン(茨城県つくば市)が開発した医療用ロボット「HAL」。人の筋力などをサポートでき、パワード・スーツへの発展が期待される(サイバーダイン提供)

 NMNは今井教授と日本のバイオ企業であるオリエンタル酵母工業(東京)によって、製品化に向けた共同研究が進められている。

 しかし、これらはほんの一例だ。視神経と接続され、ものを見ることができる義眼や、本来の体の機能を補完する役割を担う人工筋肉や人工皮膚、身にまとうことによってモーターなどが体の動きを補助する「パワード・スーツ」など、ヒューマン・エンハンスメントに関する様々な技術が世界中で研究されている。

 とはいえ、まだ多くの技術が実用段階には遠い。一般に広く利用されるまでには、まだ10~20年という時間が必要とされている。

 だが、将来的には視力を矯正するメガネやコンタクトレンズのように、人々がヒューマン・エンハンスメント機器を当たり前のように利用し、老化や障がいが人々の行動の自由を妨げない時代が現実のものになるだろう。

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