「エルサレムは首都」…トランプ氏が開いた混乱の扉

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「公平な仲介者」に疑いの目

エルサレム旧市街の「神殿の丘」で、金曜礼拝の後、パレスチナの旗を振ってトランプ大統領の「エルサレム首都宣言」に抗議する人たち(8日撮影)=ロイター
エルサレム旧市街の「神殿の丘」で、金曜礼拝の後、パレスチナの旗を振ってトランプ大統領の「エルサレム首都宣言」に抗議する人たち(8日撮影)=ロイター

 パレスチナ自治区では、激しいデモや抗議行動が展開された。今後の見通しが気になるが、ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスが第3次インティファーダを呼びかけたのに対し、西岸を支配する自治政府主流派のファタハは交渉を通じた問題解決を目指しており、呼びかけに応じるとは思えない。

 ハマスにとっては、最大の支援者であるカタールの支援が先細りとなっている現状ではインティファーダを主導できる体力はないと見られる。おそらく今回の抗議行動は長期に及ぶ大規模な抵抗運動には結びつかず、比較的短期で収束するのではないか。

 一方、イスラエルと湾岸諸国政府との関係構築は、アラブ・イスラム諸国民の強い反発を受けて、今後はより慎重に進めざるを得なくなるだろう。

 そして、おそらく何よりも大きな影響は、今回、トランプ大統領が改めてイスラエル寄りの立場を鮮明にしたことで、パレスチナ側に不信感を生み、米国の中東和平交渉における「公平な仲介者」としての正当性がより一層低下することだろう。

 今月13日にトルコのイスタンブールで開催されたイスラム協力機構の緊急会合で、パレスチナ自治政府のアッバス大統領は「米国は仲介者としての役割を自ら降りたのであり、今後の和平プロセスで米国の果たす役割はない」と述べ、トランプ大統領を批判した。

 今月中旬に予定されていたペンス米副大統領の中東(エジプト・イスラエル)訪問は、今週、米議会で行われる税制改革法案の対応が必要であるとの理由で、18年1月中旬に延期された。ペンス副大統領が当初予定していたパレスチナ自治区のベツレヘム訪問は、アッバス氏に「歓迎しない」と断られ、断念に至った。さらに、エジプトで会談予定だったスンニ派の権威であるアズハルモスクの大イマームや、コプト正教会の教皇タワドロス2世からも会談予定をキャンセルされた上、パレスチナ自治区で死者が発生する大規模な反発が続いていることも、延期の決断に影響したと考えるのが妥当だろう。

 ペンス副大統領の報道官は「アッバス大統領が対話の機会を放棄したのは残念だ」とツイートしたが、自らを敬虔(けいけん)な福音派キリスト教徒と称するペンス氏は米大使館のエルサレム移転を強く支持したと言われており、それが影響したのだろう。

見えなくなった解決の糸口

 パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとパレスチナの2国家が平和裏に共存共栄を図るという和平案の実現に向けた交渉は、3年にわたって頓挫したままだ。イスラエルによる東エルサレムの実効支配はすでに50年に及び、その間、東エルサレムのユダヤ人入植者は20万人を超えた。東エルサレムの人口の約4割がユダヤ人だ。

 また、ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植者も50万人を超えている。仮に2国家共存を進めようとしても、イスラエル建国によって故郷を追われ、周辺国に300万人以上いると言われるパレスチナ難民の帰還問題に加え、パレスチナ自治区内で増え続けるユダヤ人入植者の取り扱いも、大きな問題となることは目に見えている。

 2国家解決案に代わる有力な代替案は今のところない。パレスチナ難民の帰還、ユダヤ人の入植、エルサレムの帰属、中東和平にどれ一つ簡単な問題はない。こうした問題は時間がたつにつれて複雑になり、解決の糸口を見つけるのが難しくなる。

 中東和平交渉は崩壊が言われて久しいが、トランプ大統領の「エルサレム首都宣言」は混乱に一層拍車をかけるものだ。もつれた糸をほどくのは容易ではない。

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プロフィル
広瀬 真司(ひろせ・しんじ)
 米ジョージタウン大学外交学院にて修士号(中東研究)取得後、在イエメン日本国大使館、国連開発計画(UNDP)パレスチナ人支援プログラム・エルサレム事務所(2008~10年)、日系石油会社ドバイ事務所勤務を経て、15年に住友商事グローバルリサーチ入社。専門は中東・北アフリカ情勢分析。

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