常に最先端で勝負…ライバルが見た羽生「永世七冠」
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40代後半の戦い方とは?

1970年生まれの羽生、森内の世代は「羽生世代」と呼ばれ、つわものがそろっている。少し前までタイトル戦の常連は「羽生世代」の棋士たちだったが、若手棋士の台頭でかつてのような勢いはなくなった。40代後半を迎え、先頭集団から少しずつ遅れていく棋士が多い中で、羽生だけが今もトップ争いに加わっている。
「40代後半以降でタイトルを取っている人は限られています。ずっと同じようにはいきませんから、それぞれ工夫しながら生き残る策を考えているのではないでしょうか。一番長くトップで活躍されたのは故・大山康晴十五世名人だと思いますが、大山先生の場合、途中で得意戦法をがらりと変え、振り飛車党に転向しました。対戦相手に対する対応力でその後も勝ち続けたのですが、今、そのやり方がうまくいくのかどうかはわかりません。それが難しいのであれば、若い棋士と同じように最先端のものを一緒に追いかけ続けるしかありません。羽生さんは、どちらかと言うと、そういうスタイルだと思います」
現代の将棋は、将棋ソフトの影響などもあって、新しい指し方が次々に生まれ、移り変わりが激しい。最先端を追い続けるのは、並大抵のことではない。
「これは将棋に限ったことではなく、どんな世界でも同じです。見ていて、みなさんどんどん忙しくなっています。便利になるのはいいことだと思いますが、それによって人間が本当に幸せになっているのかどうかを考えることは大切だと感じます」
「ただ、将棋で一番になろうと思ったら、流行から逃れることはできません。羽生さんは最先端に挑み続けたからこそ、今も勝ち続けているのだと思います」
永世七冠達成後の記者会見で羽生は、40代後半における強みとして「無駄なことは考えず引き算で考える」ことを挙げた。森内もそれは感じ取っているようだ。
「若い頃はいくらでも手が読めるので、苦にならないのですが、40代で同じ読み方をしていたら、先にくたびれてしまいます。やはり大事なところに絞って力を注ぐ。そういう戦い方も羽生さんの強さと言えるのではないでしょうか」
AIの活用は避けられない
AIを使った将棋ソフトの性能が飛躍的に向上したことで、将棋の研究に将棋ソフトを取り入れる棋士も増えた。
「少し前までAIとプロ棋士の対戦が続いて盛り上がりましたが、今はもう戦うという感じではなくなって、自分を向上させるツールという言い方が一番しっくりきます」
棋士は将棋ソフトをどう使っているのだろうか。
「私はあまり詳しい方ではなくて、自分の指した将棋を復習する時に使う程度でした。今は、AIが示す手が最善手であって、そこにいかに近づけるかを考えている棋士もいるようですが、人間が機械のまねをするのは簡単なことではありません。自分の持っているものとバランスをとりながらAIと共存していくのは、これからの棋士にとっては避けられない課題です」
羽生はAIに関しても、様々な観点から発言を続けている。
「AIは様々な分野で発展を続けています。羽生さんは自ら外国に足を運んで研究者と話をするなど、去年から今年にかけてAIのことをかなり調べていました。将棋の世界でAIがどう使われていくのか、社会の中でAIの発展がどのような影響を与えるのか、そういうことを意識しながら日々を過ごしているのだと思います」
「羽生さんが研究に将棋ソフトを使っているかどうかは知りませんが、今、この状況で活躍しようと思えば、使う方が自然で、むしろ使っていない人を探すほうが難しい。トップを目指すのであれば、有利になるものは使う、そういう考え方は当然です」
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