パレスチナ問題、「二国家共存」は死んだのか

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トインビーの考察、歴史の審判

イスラエル訪問中の23日、エルサレム旧市街地のユダヤ教聖地「嘆きの壁」を訪れたペンス米副大統領。イスラエル国会での演説で、19年中に米大使館をエルサレムに移転する方針を明らかにした(ロイター)
イスラエル訪問中の23日、エルサレム旧市街地のユダヤ教聖地「嘆きの壁」を訪れたペンス米副大統領。イスラエル国会での演説で、19年中に米大使館をエルサレムに移転する方針を明らかにした(ロイター)
ペンス米副大統領のイスラエル訪問に抗議し、投石するパレスチナ人(1月23日、ヨルダン川西岸のヘブロンで)=ロイター
ペンス米副大統領のイスラエル訪問に抗議し、投石するパレスチナ人(1月23日、ヨルダン川西岸のヘブロンで)=ロイター

 パレスチナとイスラエルの対立が始まったのは、今からちょうど100年前、第1次世界大戦(1914~18年)終結後のことだ。長年所有してきたものを守ろうとするパレスチナ側は「土地の所有権」、2000年間所有してこなかったものを得ようとするイスラエル側は聖書の時代からの「歴史的な権利」に依拠して、それぞれの主張を展開した。

 戦後処理で中東を担当した英歴史家のトインビーによると、パレスチナに住むアラブ人はイスラエル建国の1948年まで、約1300年間、この地に住んできた。時間の長さは家屋や土地などの資産を所有する権利をアラブ人側に付与するものであり、パレスチナを再占拠する権利を持つというユダヤ人側の主張には時効が適用される。アラブ人を家屋から閉め出して財産を奪う権利はイスラエルにはないのだという。

 同時にトインビーは、イスラエル国家が、パレスチナにおける「既成事実」として受け入れられる必要があるとも強調している。イスラエル国家は47年の国連総会で採択されたパレスチナ分割決議に基づいて建国され、その後も現存し、イスラエル国民もすでに存在していることは今や既定の事実だ。これを元に戻すことはできない。もし元に戻せば、今度は「イスラエル難民」という多数の難民を新たに生み出してしまう。

「二国家共存」、ネックとなっているのは……

 紛争解決のため、トインビーは(1)パレスチナ(アラブ)側に対し、49年の休戦ライン内におけるイスラエル国家の建設を容認すること (2)イスラエル側に対し、パレスチナ人を窮状から救済すること――を提言。双方がやるべきことをやり、和平への障害を取り除かない限り、この紛争に終わりはないと予言した。

 「二国家共存」の基礎を作ったオスロ合意が葬り去られた後には、どのような展開が待ち受けているのだろうか。トランプ大統領は、2000年から01年にかけてクリントン大統領(当時)が調停を行ったキャンプデービッド・タバ交渉が挫折した原因は、エルサレム問題だった事実を、今こそ思い起こすべきだろう。

 米国はイスラエル、パレスチナとともに、国連諸決議の土台である「領土と平和の交換」、つまり、平和が実現したところから領土を返還するという和平原則を受け入れ、「西岸・ガザ」にパレスチナ国家を樹立することで基本合意したものの、最後に残ったエルサレムにどのような地位を与えるのかを巡る交渉で失敗した。

 ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地の「共同統治方式」を求めたクリントン氏の提案に、パレスチナ側は当時のアラファト議長が「イスラム世界の世論を無視したら、自分は暗殺される」と最終的に受け入れを拒否したためだ。パレスチナ、アラブを含めたイスラム教徒の人口は全世界で16億人に上り、世界人口の22%を占める。

 その上で、トランプ氏の宣言にはあいまいな部分が残っている。イスラエルを訪問したペンス米副大統領は今月22日、米大使館のエルサレム移転を来年中に実現する方針を明らかにした。報道によれば、移転先としてはエルサレムにある米領事施設を大使館に改築する案などが検討されているが、まだ正式に決まったわけではない。領事施設は東エルサレムとの境界線に近く、パレスチナ側は警戒感を強めている。

 それでも、いつか米国が東エルサレムを将来のパレスチナ国家の首都と認め、そこに米大使館を置くと表明すれば、パレスチナ側が受け入れ、和平交渉が前進する道は残っている。やはり、最後は「二国家共存」に戻ってくるしかないだろう。

プロフィル
森戸 幸次(もりと・こうじ)
静岡産業大学教授。1950年生まれ。東京外国語大学卒業。時事通信社ベイルート特派員、エジプトの「アルアハラム」政治戦略研究センター客員研究員などを経て、94年同大学助教授、99年より現職。国際関係論・中東・アラブ地域論、紛争史を研究。アラビア語を駆使して情報を分析、中東和平プロセスを定めた93年「オスロ合意」の崩壊をいち早く予測したことで知られる。主な著書に『中東和平構想の現実―パレスチナに二国家共存は可能か―』(平凡社、2011年)、論文に「中東百年紛争史」(静岡産業大学紀要『経営と環境』、17年)などがある。

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