「医者任せ」が招く危機…医療制度改革の“処方箋”

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病気を生むのは「貧しさ」か「豊かさ」か

 医療保険のみならず、日本のあらゆる社会保障制度は西欧諸国のものをベースにしており、その原点は、1942年11月にイギリスで出された「ベヴァリッジ報告書」にある。ここには国民すべてに最低限の生活保障を実行することが国家の義務であることと示されている。

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 なぜ国が「貧困」を、「高齢者の生活」を、「治療」を支えなくてはならないのか。

 産業革命により大量の労働者が都市に流入し、それまでのキリスト教の教区単位のコミュニティーは弱体化した。社会的弱者を支えるセーフティーネットとして、教会が十分に機能しなくなったとき、貧困に苦しむ人々が暴徒化し、治安が大幅に悪化することを懸念し、イギリスで救貧法が生まれ、「ベヴァリッジ報告書」にたどり着いた。

 社会を安定的に維持するため、国が社会的弱者を無視できなくなった面もあるが、近代化や都市化が所得の格差を生み出し、貧困を生み出し、衛生環境の悪さが病気を生み出している、といった発想、つまり「社会的弱者は(個人のせいではなく)社会が生み出している」という考え方が浸透したことが福祉国家誕生の背景にある。

 「治療(医療)」に関して言うと、我が国も戦後まもなくは、結核、肺炎、気管支炎など、劣悪な衛生環境や栄養不足など、社会的な要因に関わる疾病が多くを占めていた。しかし、今日では、がん、心臓病、脳卒中などの原因となる「生活習慣病」と呼ばれる疾患が多くを占める。こうした生活習慣病は、運動不足や偏った食生活など、一人ひとりの生活習慣の悪さが引き起こすケースも少なくない。すなわち、「貧しさが生み出す病気」から「豊かさが生み出す病気」へと疾患構造の主軸が変化しているとも言えるのだ。そうであれば、個人と国家の医療負担に関する線引きを見直すべき時期が来ているのではないだろうか。

 病気にかからないよう健康管理を行ったり、持病を抱えても重度にならないよう生活に気を付けたり、きちんと薬を服用したりしている人がいる一方で、生活習慣病のリスクを強く警告されながらも、喫煙や暴飲暴食、短い睡眠時間を改めようとしないなど、自分の健康や身体に無関心としか思えない人もいる。現状の医療制度では、どちらにも等しく負担を課しているが、このことが一種の「モラルハザード」を生み出しているのではないかと懸念している。

医療の“主役”は誰?

 日本人は日頃からの運動、健康的な食生活、十分な睡眠など健康維持のための活動水準が、国際平均より低いとの調査結果がある。とくに、「運動」と「食事」は17か国中、最低の水準である。

 その上、三菱総合研究所のデータによると、健康を維持したいと思う気持ちはここ5年ほどの間、低下傾向にある。気軽に医療を受けられる仕組みがあることがかえって、自分の身体への関心低下につながっているとしたら、何とも困ったことである。

 また、生活習慣病をはじめとした慢性疾患が主流になった今日、医師と患者の関係も変化してきている。慢性疾患には完治が難しい病気が多い。治療は長期にわたり、治療方針にはさまざまな選択肢があるという特徴がある。

 とくに生活習慣病の場合は、患者自身の生活改善や自律的な服薬なしには改善効果は期待しにくい。要は、受け身の姿勢で医療サービスを利用するだけでは済まされないのである。

 医師は「治療方針の決定者」から「専門的な助言者」へと立場を変え、患者自身が治療方針を決定し、主体的に身体を自己管理することが求められるようになってきている。これに合わせて、医療の目的も「治療や治癒」から「健康や疾病のコントロール」へと変化し始めている。

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