「医者任せ」が招く危機…医療制度改革の“処方箋”

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

「患者の主体性」が重要な局面

 「終末期」も患者の主体的な選択が重要な局面である。延命措置を望むのか、緩和ケアを受けたいのか、とにかく少しでも長く生きたいのか、それを医師が決めることはできない。人生の最期をどのように過ごしたいのかを知っているのは「患者自身」をおいて他にいないからである。

サムスンの牙城・韓国を攻める家電メーカーとは

 自分の口から食べ物をとることのできない患者が、腹部に開けた穴から胃に管を通して水や栄養をとる方法は「胃ろう」と呼ばれる。日本では延命治療などとして一般的に行われるが、フランスでは回復の見込みのある患者に対する一時的な処置を除き、原則として行わない。口から自力で食事をとれなくなった時、それでも生き永らえさせようと手を尽くすことは医師の役目ではないとの社会通念があるからである。

 医療は患者のQOL(生活・生命の質)を高める手段であって目的ではない。患者自身が自分の健康と身体と病気に当事者意識を持って、医師の助言と医療技術を自分のQOLを向上させるために有効活用する。これからは、そのような発想を持つ必要があるし、医療に患者が主体的に関わりやすくなるように、医療の仕組み自体も作り替えなくてはならないのではないだろうか。

ベヴァリッジ報告書(1942年11月)

出典:「Archives and Manuscripts at the Bodleian Library」(オックスフォード大学)
出典:「Archives and Manuscripts at the Bodleian Library」(オックスフォード大学)


患者主体の医療の実現へ…四つの方策

 そこで、患者の人生観と意思決定を尊重した健康状態の把握・改善・維持を図る理念として「メディカル・セルフリライアンス(Medical Self-reliance)」を提唱したい。

 この理念を実現するための方策は四つある。

 第一は、人それぞれが健康を保持しようと心がけたり、自ら主体的に疾病の管理をしたりするように(いざな)う「仕掛け」を、公的医療保険に付与する「患者参加型インセンティブ医療保険」の導入である。

 この方策は、症状によって二つの段階に分けられる。

 まず、食、睡眠、運動などの健康維持活動を日常的に行っていることを証明するデータを提示すると、ちょっとした風邪などで薬局や病院に行った場合、費用の減額がなされる「セルフメディケーションフェーズ」。次は、生活習慣病の患者などが医師から処方された薬剤を飲み忘れなく服用したり、適切な生活改善行動を行ったりした場合、それを証明するデータを保険者に提出することで、月々の保険料の減額が行われる「慢性期フェーズ」。薬局や病院で提示する活動データは、(腕時計型などの)ウェアラブル機器を用いて患者自身が収集する。

 第二は、「患者教育システム」の構築である。

 スマホ等で誰もが気軽にアクセスし、現状の生活習慣や健診データ、遺伝子検査情報などから、未来の身体の状態、医療費の見込み額、さらには生活を変えた場合に病気の発生や将来の医療費をどれだけ抑えられるかなどを把握できるようにする。人工知能(AI)がその人に合った生活改善プログラムを教えてくれる。普及を図るため、本システムへのアクセス記録の提示を、医療機関での受診条件に付すことを検討してもよいだろう。

 第三は、薬局の「パーソナル・メディシン化」だ。

 ちょっとした病気であれば、まずは自己治癒力を高めて治すという手段も選べるようにする。その際、身近にある薬局やドラッグストアを有効活用することがカギである。薬局に常駐する薬剤師らの医薬品に関するさらなる知識習得や、健康指導・生活指導のコンサルティング力を高めるための研修を充実することが大切である。

 第四は、国民の参画の下で、よりよい医療の仕組みを考えることである。

 医療を取り巻く環境、疾患構造、医療の目的は変化してきている。既に書いたように、受益者たる現世代が医療サービスを利用する際の費用を、自分たちの負担で賄いきれていない状況でもある。QOLを高める医療を実現し、それを将来世代にわたり持続するには、限られた医療資源をこれまでよりもさらに効率的で効果的に活用する仕組みに変える必要がある。被保険者たる国民も、もっと医療保険制度に関心を持ち、有識者や専門家任せにすることなく、積極的に改革に参画できるような環境づくりが望まれる。


プロフィル
奥村 隆一( おくむら・りゅういち
 三菱総合研究所主任研究員。早稲田大学大学院修了。1994年4月、三菱総合研究所入社。東京都市大学非常勤講師。プラチナ社会センターに所属し、少子高齢問題、雇用・労働問題、社会保障政策に関わる研究を行う。著書に『仕事が速い人は図で考える』(KADOKAWA)、『図解 人口減少経済早わかり』(中経出版)などがある。

1

2

3

スクラップは会員限定です

使い方
「深読み」の最新記事一覧
14420 0 深読み 2018/03/12 16:30:00 2019/01/22 16:02:25 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180312-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)