サクラ博士にバッタ博士…すごいハカセが日本にいる

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魚の顔を見分けるマグロ博士

完全養殖された近大マグロを前に話す「マグロ博士」の熊井英水さん
完全養殖された近大マグロを前に話す「マグロ博士」の熊井英水さん

 近畿大学水産研究所は2002年、世界で初めてクロマグロの「完全養殖」に成功した。この偉業を主導したのが、08年まで同研究所長を務めた熊井英水(ひでみ)・現名誉教授(82)。知る人ぞ知るマグロ博士だ。

 熊井さんがマグロ養殖の研究を始めたのは1970年。完全養殖の成功までに32年もの歳月を費やした。その軌跡は熊井さんが自著に詳しく書いているほか、『近大マグロの奇跡』(新潮文庫)というルポも出版されている。NHKの人気番組だった「プロジェクトX」でも取り上げられた。

 研究は前例がないだけに、まったくの手探りだった。クロマグロの養殖、すなわち「卵から成魚へ育てる」ことはできる。しかし、完全養殖というからには、養殖した個体が卵を産んで次世代につなぐことが必須だ。それを育てて成魚にし、また産卵させて、というサイクルを確立しなければならない。熊井さんたちが稚魚を捕獲して人工飼育し、最初の自然産卵を実現するまでに10年かかった。

 ところが、最初の産卵から11年もの間、養殖マグロは一向に次の産卵をしなかった。水温、水質など何がマグロの繁殖環境に影響を与えているのか、熊井さんたちは頭を抱えた。後の研究で、同研究所がある和歌山県串本町の海は水温が小刻みに変動しがちで、これが影響したのではないかと推測されるようになった。ただ、当時は原因が未解明で、熊井さんたちは試行錯誤の連続だった。ほかにも、水槽の内壁に衝突して死ぬ幼魚が出たり、成魚がいけすの網目に突入したりした。マグロは神経質な魚で、ちょっとした光の明暗でパニック行動を起こすことなどが突き止められるまでにも相当な時間がかかった。

 30年以上の挑戦の末に成し遂げられた完全養殖のおかげで、私たちの胃袋を近大マグロが満たすようになった。「近大マグロ」は今やブランド魚になり、大阪駅前と東京・銀座に進出した和食店「近畿大学水産研究所」は大変な人気を保っている。マグロ博士の執念がもたらした大きな「恩恵」と言えるだろう。

 熊井さんはインタビューで、研究者に必要な資質として「忍耐」「正確な観察眼」「愛情」を挙げる。マグロに深い愛情をもって研究を重ね、「熊井先生は魚の顔を見分けることができる」という都市伝説まで生まれた。「見分け」の名人として実際にテレビ出演もしたという。現在は水産研名誉顧問。研究の一線からは退き、自らの経験を一人でも多くの後輩たちに伝えるよう心がけている。

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