忖度?公文書書き換え、江戸時代も…将軍自ら追及

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「知らなかった」「任せていた」

「千代田之御表 将軍宣下」(楊洲周延画、東京都立図書館蔵)。明治時代の錦絵に描かれた江戸城大広間。将軍家の重要な儀式がここで行われた
「千代田之御表 将軍宣下」(楊洲周延画、東京都立図書館蔵)。明治時代の錦絵に描かれた江戸城大広間。将軍家の重要な儀式がここで行われた

 『柳川調興公事記録』によると、家光は双方の言い分が食い違う点を中心に、義成に七つの質問をした。義成は「自分は知らなかった」「外交の実務は柳川親子に任せていた」と弁明したが、父・義智の改ざんへの関与を問われると「決してない」と明確に否定した。家光は最後に「家中での非法を知らなかったとはどういうことか」と義成の監督責任をただし、義成は「調興は幕閣に知り合いが多く、家臣はその権勢を恐れ、調興の不正を見つけても私の耳に入れなくなっていた」と苦しい釈明をしている。喚問の場にいた調興には「言いたいことはあるか」という問いかけだけで、喚問で「サプライズ」はなかった。

 4日後に出された家光の裁定は、「義成はおとがめなし。主謀者は調興」。主謀者とされた調興は、大方が予想した死罪ではなく、津軽(青森県)への配流とされた。一方で、偽国書を実際に作成した義成の家臣2人は一族もろとも死罪とされた。形の上では義成の勝ちだが、「喧嘩(けんか)両成敗」の結末ともとれる。

 家光は同時に、義成に「来年までに朝鮮使節を来日させよ」と命じている。裁定の主眼は「引き続き朝鮮外交は対馬藩に任せる」ということにあった。事件を調べて、朝鮮との外交が非常に気を使う面倒な仕事であることを思い知り、直接、外交を担うより、首根っこを押さえた上で、引き続き宗氏を使う方が得策と判断したのだろう。間に宗氏がいてほしいとの思いは朝鮮側も同じだったようだ。それどころか朝鮮側は、かなり前から薄々改ざんに気づいていたフシすらある。

 喚問に列座した諸大名の多くは、家老が藩主を裏切ったこの事件に肝を冷やし、義成を支持していた。裁定翌日には対馬藩邸に諸大名の祝いの使者が列をなしたというから、義成無罪の裁定には“大名世論”への配慮もあったようだ。

津軽藩の拠点・弘前城(青森県)。現在は桜の名所として知られる。調興は藩主の招きで城で能を楽しんだこともあった
津軽藩の拠点・弘前城(青森県)。現在は桜の名所として知られる。調興は藩主の招きで城で能を楽しんだこともあった

 主謀者としながら調興を流罪で済ませたのは、義成が朝鮮外交に失敗した時の予備要員と考えていたからではないか。配流後の調興は広大な屋敷に住み、賓客のように扱われたという。幕閣の誰かから「悪いようにはしない」と言い含められていたのかもしれない。代わりに「トカゲの尻尾」にされたのは、国書改ざんの責めを負わされ、一族もろとも死罪とされた義成の家臣だった。

家光が残した“故事英語”

 家光は当時、大名を相次いで改易し、段階的に鎖国を進めていた。諸大名に登城命令まで出して喚問を見せたのは、この喚問が家光の外交や大名統制の方針を納得させるための「政治ショー」だったことを物語っている。

 この一件、今回の改ざん問題の経緯と似ているところも似ていないところもあるが、決定的に違うのは改ざんで欺かれた相手だ。民主主義下では「政治ショー」だけで幕引きとはいかず、国民世論が納得するまで真相究明の努力が必要なことは言うまでもない。

 家光が行った再発防止策がひとつある。偽国書作成の一因となった自らの肩書を「大君(たいくん)」と定めたのだ。「タイクーン(tycoon)」は今は「実力者」の意味に転じ、日本語由来の英語として定着している。いま、最も海外の特派員泣かせの日本語になっているという「ソンタク」も英語になるかもしれない。意味が「改ざん」に転じても、財務省理財局だけの責任か、まだ断言はできない。

プロフィル
丸山 淳一( まるやま・じゅんいち
 読売新聞東京本社経済部、論説委員、経済部長などを経て、熊本県民テレビ報道局長から読売新聞編集委員・BS日テレ「深層NEWS」キャスターに。経済部では金融、通商、自動車業界などを担当。東日本大震災と熊本地震で災害報道の最前線も経験した。1962年5月生まれ。小学5年生で大河ドラマ「国盗り物語」で高橋英樹さん演じる織田信長を見て大好きになり、城や寺社、古戦場巡りや歴史書を読みあさり続けている。

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35367 0 深読み 2018/04/03 11:50:00 2018/04/03 11:50:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180330-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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