次の産業革命へ、勢いがある中国とのんびり日本
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シェアリングの利用意欲1位

成都市内で目についたのはシェアリング自転車である。オレンジ色(Mobike=テンセント系)や黄色(Ofo=アリババ系)の自転車が、1時間1元(=約16.5円)で利用できる。借りるには、スマホ決済を使う。専用のアプリを起動させ、スマホのカメラを向け、QRコードを読み取ると解錠する。二つの簡単な作業で、手続きはわずか5秒で完了する。
シェアリング自転車は街中にたくさんあり、GPSがついているので、スマホですぐに見つけることもできる。好きなところに乗っていき、そこで乗り捨ててもいい。専用駐輪場を整備するのでなく、「街すべてを駐輪場」にしたことで、シェアリング自転車は爆発的に普及した。
私は合理的な中国人の国民性が、シェアリングを受け入れやすかったことが普及を後押しした要因だと思う。
調査会社「ニールセン」が行ったシェアエコノミーに関するグローバル調査(2013年)で、「シェアリングサービスの利用に意欲的」とされたのは、中国の94%が最も高く、2位のインドネシアの87%を引き離し1位だった。ちなみに、米国、ヨーロッパ各国は50%程度、日本は40%にとどまっている。
中国では、SNSの「微言(ウィーチャット)」に約7億6000万人、「QQ」に約5億8000万人が参加し、スマホ決済が当たり前になり、現金を持ち歩かなくなっている。購入動機、消費意欲、商品(サービス)選択などの経済的な意思決定が、企業のプロモーションやキャンペーンよりも、SNSの「友達」や仲間同士で交わされる推薦、レビュー、口コミによって左右される。
だから、新サービスであっても、有益であれば、広告費をかけることなく、費用ゼロで一挙に広がる可能性がある。
第三次産業革命の通信インフラ、5G
世界は第三次産業革命のパラダイムシフト(枠組みの転換)の中にある。企業が飛躍的に成長するのは、このパラダイムシフトに乗れるかどうかによる。「限界費用ゼロ社会」を書いた経済学者・ジェレミー・リフキンによると、「パラダイム」は「コミュニケーション手段」「エネルギー」「輸送手段」の三つで定義されるという。
第一次産業革命は1776年、イギリスでジェームズ・ワットが蒸気機関を実用化したときに始まる。蒸気を動力源とする印刷機によって、情報伝達手段が大きく変化した。アダム・スミスの「国富論」は、同じ年に刊行されている。蒸気機関の応用によって石炭が安価に採掘されるようになり、鉄道機関車に利用される。印刷、石炭、鉄道でイギリスが世界をリードした。
第二次産業革命はアメリカで起きた。グラハム・ベルによって発明されたアナログの「電話」によって世界中の人々が安価にコミュニケーションできるようになった。世界の油田をロックフェラーが押さえ、石油がエネルギー源となった。そして、内燃エンジンが発明され、フォードが大衆向けの自動車を量産、ガソリンの世界的供給網が整備された。電話、石油、自動車が第二次産業革命のパラダイムであった。
第三次産業革命はまだ入り口だ。ただ、明確な兆しはある。化石燃料に代わる「再生可能エネルギー」の実用化。コミュニケーション手段は、インターネット、IoTとなり、高速の5G(第5世代移動通信システム)がインフラになる。「高速・大容量」「低遅延」「多接続」が特徴の5Gは、IoT革命の実現に不可欠である。通信速度が速いため、2時間のDVDが3秒でダウンロードできるようになり、高性能な動画配信も可能となる。
産業界が特に注目しているのは、リアルタイムな遠隔操作が可能となる「低遅延」である。遅延とは、送ったデータを受信するまでにかかる時間のズレ(遅さ)のことだ。
5Gでは無線区間の遅延を1ミリ秒以下とされており、離れた場所にいながら手術ができる遠隔医療も可能となる。自動運転のブレーキ操作にもズレがなくなり安全性が高まる。さらに、「多接続」は多数の機器を同時接続できるというもので、まさにIoT革命を推進することになる。