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「負の連鎖」脱却、将来の自立願う
学校でも家庭でもない「第三の居場所」が心の支えになり、子どもたちの成長を促している意味は小さくない。
当初は中学生のみを対象としていたが、卒業後も通いたいという希望者が多いことから、高校生対象の「ブランチ」も2か所で週1回ずつ開設し、約40人が登録している。中退を防ぐことも目指す。
足立区では、「貧困の連鎖を断ち切ること」を目的の一つとして様々な事業に取り組んできた。困窮家庭の子どもは、高校や大学への進学率が低いという傾向がある。進学が思うようにできず、安定した仕事に就くのが難しくなれば、貧困に陥るリスクが高くなってしまう。生徒が進路の希望をかなえることを支援し、高校入学後も中退を食い止める。足立区くらしとしごとの相談センター所長の橋本忠幸さんは「子どもたちの将来の自立と明るい未来に結びつけたい」と話す。確かに学校教育だけでは限界があり、居場所事業がそうした役割を担っていけば、子どもたちの大きな力になるだろう。
足立区のような包括的な支援は例がないとみられるが、困窮家庭の子どもに対する学習指導は各地の自治体に広がっている。支援活動に協力する大学生も多く、マンツーマンに近い指導が受けられるのは、子どもたちにとっては心強いことだ。
被災地に「公営塾」…県立高の魅力高める

無料の学習支援活動は、東日本大震災の被災地でも行われている。宮城県南三陸町では、県立志津川高校の敷地内に開設された「志翔学舎」で、2017年度から放課後の学習支援が行われている。町内の中学校で学習支援をしていたNPO法人キッズドアが運営を担当し、佐藤陽さん(27)ら常駐スタッフが、補習のほか、IT教材を活用しながら受験勉強もサポートしている。部活動後などに希望者が利用する仕組みで、生徒たちには「分かりやすく教えてくれる」と好評だ。
大学に通うには不便な交通事情や経済的な問題もあり、進学希望者は少なかった。支援を始めてから受験にチャレンジする生徒が増え、今春は志津川高校から16人が4年制大学に進学した。
志津川高校は県立だが、学習支援の経費は町が負担している。町内にある唯一の高校として、存亡が地域の活力にかかわるとみられるためだ。過疎化もあって近年は定員割れが深刻化し、生徒数は震災前の半数程度にとどまる。周辺地域で、生徒減による県立高の統廃合が進む現状もある。
南三陸町の住民は甚大な津波被害を受けた。「公営塾」には、震災後に仮設住宅などで困難な環境にあった生徒らの学力を高め、進学を支援する目的がある。指導の充実により志津川高校の魅力をアップさせ、地元の中学からの入学者を増やす効果も期待されている。
志翔学舎では、生徒たちの自主性を育むことや探究的な学習も重視している。今年3月には、働くことを考えるワークショップ「未来カフェ」も町内で開かれた。中心になって企画した三浦千裕さん(18)は、今春から山形市の東北芸術工科大に進み、コミュニティデザイン学科で学ぶ。「将来は南三陸に戻り、多くの人が起業しやすい町づくりに携わりたい」と意気込んでいる。看護系の大学に進み、将来は地元の病院で高齢者らの力になりたい、という女子生徒もいた。