日産、究極のエコカーFCVをやめるって…なぜ?

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【理由3】水素の問題

トヨタのFCV「MIRAI」
トヨタのFCV「MIRAI」

 三つ目の課題は、水素自体の入手の難しさである。

 水素は、無尽蔵な資源だと言われているが、地球上に水素としては存在していない。必ず何かほかの元素と化合物を作り、その中に水素が含まれる状態だ。たとえば、水(H2O)がそうである。地球の7割が海ということから、水は豊富にあるという印象があるかもしれない。ところが、水は液体として安定した状態を維持しており、簡単に水素と酸素に分離することができない。

 水素を手に入れるには、水を電気分解するための膨大なエネルギーが必要になる。つまり、水素を利用するには電気というエネルギーが介在する。ならば、なぜ電気をそのまま使ってEVを走らせないのか――。そこにFCVの矛盾が生じる。

 水素利用の推進者らは、水素を()めることでエネルギーの貯蔵に役立つと言う。しかし、電気がそこにあるなら電池に蓄電すればいい。EVに使われるリチウムイオン電池は充放電を繰り返すと電池容量が下がっていく。EVは電池容量が70%になった時点で「寿命」と見なして交換する。だから、EVで“寿命”とされた電池であっても、家庭や事務所用に定置型に再利用する道が残されている。

 また、発電が不安定だと言われる太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる電力を、中古バッテリーに貯めておけば十分使えるのである。日産自動車は、リーフ発売前にフォーアールエナジー社を設立し、今年4月にEVの中古バッテリーの再利用を事業化した。それは電力消費の平準化にも活用でき、万一の災害等に備えたバックアップ電源にもなる。

 水素にして貯めておき、そこから再び燃料電池で発電する意味がどこにあるのだろう。

FCVに疑問を抱き始めた

 このように見ていくと、70MPaという高圧水素タンクを搭載したFCVを普及させる意味はほとんど感じられない。

 とはいえ、燃料電池の技術が不要だというわけではない。クルマなどの移動体ではなく、定置型として、家庭用や工場、事務所などの電力供給やバックアップとして使うことは有意義だろう。都市ガスの天然ガスには水素が含まれる。これを分解して水素を取り出し、燃料電池で発電すれば、ガスと電気の両方に役立つ。

 定置型であれば、70MPaという途方もない高圧タンクへ水素を充填する必要もない。高圧化と冷却の過程でCO2の排出を増やす懸念もない。「エネファーム」と呼ばれる燃料電池を使ったコージェネレーションの商品がすでにある。クルマに利用することで矛盾が生じる点を理解する必要がある。

 日産は2016年に、既存のFCVと異なる燃料電池方式の、固体酸化物型燃料電池(SOFC)の構想を発表した。これは、バイオエタノールから水素を取り出し、別方式の燃料電池で発電する方式だ。これであれば、高圧水素タンクを搭載する必要がない。従来のFCVに疑問を抱いた日産が、新たな道を探り始めたと解釈することもできる。しかし、それも、まだ量産市販への見通しが立たないということであろう。実際、FCVの研究開発をやめたわけではないと、日産は言う。

 政府は水素社会の実現を目指している。だが、従来型のFCVの普及が困難な状況を理解したい。行政や民間企業だけでなく、消費者もこうした点を認識し、CO2の排出を削減する環境づくりへ向かうべきではないだろうか。

プロフィル
御堀 直嗣( みほり・なおつぐ
 1955年、東京都生まれ。玉川大工学部卒。大学卒業後はレースでも活躍し、その後、フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。新著に「スバルデザイン」(三樹書房)がある。

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32733 0 深読み 2018/07/12 08:20:00 2019/01/22 16:11:54 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180706-OYT8I50046-T.jpg?type=thumbnail

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