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「イレズミの方はお断り」

世界的なタトゥーの流行・復興と、日本社会の“入れ墨タブー”。2020年の東京五輪開催などが迫るにつれ、ホテルや旅館、入浴施設などでの外国人客とのトラブルや摩擦を心配する声が高まりつつある。だが、摩擦はすでに起きている。
2013年、北海道のアイヌ民族の団体の招きで来日したニュージーランドの先住民族、マオリの女性が恵庭市にある民間の入浴施設を訪れた際、顔に施したタトゥーを理由に「イレズミの方の入場はお断りしている」として利用を拒否され、問題となった。この件は海外でも大々的に報道された。
観光庁は、16年の段階で、タトゥーがある訪日外国人について、〈1〉シールなどで覆う〈2〉家族連れの入浴が少ない時間帯の入浴を促す〈3〉貸し切り風呂などを案内する――といった対応を施設側に呼びかけている。だが、今回のW杯で見られたように、体の広範囲にわたってタトゥーを施す人が増えているし、大浴場での入浴を楽しみに来た客に様々な制約を課すことが、果たして受け入れられるのかは疑問だ。
「入れ墨=犯罪、怖い」根強いイメージ
この問題は、タトゥーだけに着目していては解決策を見いだせないと思う。まず、日本の“入れ墨タブー”の背景に、「入れ墨イコール反社会勢力、犯罪、怖い」といったイメージの浸透があることを認識する必要がある。

関東弁護士会連合会は14年、20代から60代までの男女計1000人を対象に、入れ墨に関するアンケート調査を行った。「入れ墨を入れた人から実際に(暴行、脅迫、強要などの)被害を受けたことがあるか」との問いに対し、95.5%が「ない」と答えたが、一方で、「入れ墨を入れることを法律で規制すべきだと思うか」との質問には、33.9%が「強く規制すべき」「規制はあってよい」と回答した。「怖いから」「危なそうだから」といったイメージを基に、規制を肯定的にとらえていると言えよう。
「情報提供」と「工夫」…共存の努力を
すでに紹介したように、海外では民族のアイデンティティーやファッションを理由にタトゥーを入れる人が多くいる。「郷に入れば郷に従え」的な主張も耳にするが、「観光立国」「インバウンド」などと外国人客を当てにしながら、こちらの事情を押し付けて理解されるのだろうか。もはや、日本人が、日本人だけで社会を営むのは難しい時代に入っていることも考えねばならない。
私が提案したいのは、お客を迎える日本側が「情報提供の充実」と「工夫」に力を入れることだ。入浴施設等がタトゥーを理由に利用を制限するなら、外国人客が事前に把握できるように、インターネットサイトなどを通じて多言語で、細かく、丁寧に情報提供すべきだ。すでに、英語と日本語で、入浴施設やプールなどの受け入れ状況についての情報を提供する総合サイトもいくつか登場している。
「工夫」については、例えば、湯浴み着での入浴を認めるなど、タトゥーを入れている人にも、それを見るのが嫌だという人にも受け入れやすい方法を真剣に考えるべきだと思う。全裸でこそリラックス、という日本の入浴スタイルだが、世界的にみれば、水着をつけて入るスパ方式が主流なことも頭に入れてほしい。
「タトゥー=悪の象徴」といったイメージだけで、「入れ墨はお断りだから」などと一律的な対応をするのはよくない。考えることをやめてしまう姿勢こそが問題なのだ。