故郷の山はどうなる?登山地が抱く「悩みと望み」

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笹刈りの後に迎える「至福の時」

高校生の山岳部員たちが鎌をふるう鍬ノ峰登山道の笹刈り
高校生の山岳部員たちが鎌をふるう鍬ノ峰登山道の笹刈り

 人と山との「良い関係」の例を紹介したい。

 長野県・北アルプス山麓の(くわ)ノ峰(標高1,623メートル)では、地元の大町岳陽高校の山岳部の生徒たちが2001年から登山道整備を続けている。登山道の整備が山の環境保全に役立つことはすでに説明した通りで、2014年度に山岳遺産として認定された。保全活動の主体が高校生であるのは全国的にも珍しいケースだ。

 顧問の大西浩先生は、定期的に「かわらばん」と題したメールで近況を知らせてくれる。昨年夏にいただいた報せには、こんな情景が(つづ)られていた。

 「(生徒たちが山道で)手に手に鎌をもって、人海戦術の笹刈りの始まりである。前回の作業から半年しか()っていないが、笹の繁茂には驚かされる。隊全体が尺取虫よろしく、じりじりと前進していく。『僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる』と詠ったのは高村光太郎だが、その言葉通り前には道なし、背後に道ありだ」。

 笹刈り作業は麓の方から始まり、徐々に頂へと迫っていく。そして、いよいよクライマックスを迎える。

 「山頂に出た。ここに来ると、やはり初めての1年生は歓声をあげる。今年もこの山に訪れてくれる人を迎える準備が整った。新しく部長になった2年生のA君の音頭で山岳部歌を歌い下山開始。自分たちが汗水たらして笹を刈った道を、自分たちがまっさきに辿(たど)るとは、なんという至福の時か」。

「山の日」に考えること

奥大山での自然観察ハイキング。背後は烏ヶ山
奥大山での自然観察ハイキング。背後は烏ヶ山

 8月11日が国民の祝日「山の日」となって3年目。今年の「山の日」記念全国大会は、先述の大山で開かれる。

 山の日の趣旨は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことだ。制定のきっかけは、国民的作曲家だった故・船村徹さんが、「海の日」があるのになぜ「山の日」はないのか、と疑問を呈したこととされる。船村さんが新聞に寄稿した文章には、こんなくだりがあった。

 「山に降った雨や雪は、森にしみ出して林を流れ下り村や里をうるおして大河となって、やがて広大な海洋へとたどり着くのだ。とどのつまりが山と海とは、親友でもあり、男と女、夫婦以上に深い仲でもあるのだ。(中略)『山の日』をつくり、国民の祝日とさだめ、おおいに、『山海の友情』を厚くしようではないか」(2008年9月7日付「下野新聞」)

 山から海までのつながりの全てが「生態系」であると意識したこの考え方が、「山の日」制定の機運を高める発火点となったと言えよう。

 「山の日だから登山」と思い立つ人は少なくないと思う。もちろん、山の素晴らしさを体感するのはとても有意義なことだ。しかし、それは祝日の趣旨の半分でしかない。山の恩恵に思いをはせ、人と山との関係を考えること、山の環境や生態系について知ることも重要なテーマなのだ。

 ここで紹介したように、地域の人々が地元の山々を守るために、各地で地道な活動を続けていることを知ってもらいたい。そして、山の環境について考え、身近な人と語り合ってもらいたいと願っている。このすばらしい環境と、かけがえのない自然からの恵みを、確実に未来へと引き継いでいくために。

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36410 0 深読み 2018/08/11 05:20:00 2018/08/11 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180808-OYT8I50022-T.jpg?type=thumbnail

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