人間味あふれる「将棋指し」がいた時代

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逆転のテクニックを学ぶ

森けい二九段。「終盤の魔術師」と言われた
森けい二九段。「終盤の魔術師」と言われた

 ユニークな棋士といえば、昨年引退した森けい二九段も忘れられない。1978年の名人戦七番勝負、中原名人(当時)への挑戦者になった森は第1局の朝、突然剃髪(ていはつ)して登場し、周囲をあっと言わせた。終盤の逆転術が持ち味だ。

 「私が奨励会にいた時代は、研究会(何人かで集まって、ある局面を検討したり、1対1の実戦をしたりする)を開くという文化は今ほどありませんでした。上の世代の人たちがそんなことをしないので、こちらも踏襲するわけです。やることがないから、先輩の家に行って、そこにあった棋譜を並べるのです。その中に、森先生の棋譜がありました。

 当時、私は(香1枚を落としてハンデをつける)香落ちで苦戦していました。勝つには終盤で引っくり返すしかありません。森先生は序盤がすごく下手でしたが、中飛車(飛車を真ん中の筋に移動させる戦法)に構えて終盤に逆転して勝った指し回しは、香落ちで形勢をひっくり返すテクニックに通じるものがありました。そういう逆転術を、繰り返し盤に並べることで、私は勉強したわけです。

 あと、森先生は「必至」(相手の玉が次に詰む状態で、受けなしに追い込むこと)のかけ方がすごく上手でした。自分の玉が安全ならば、必至をかければ将棋は勝ちです。その感覚がみんなあまりつかめていませんでした。その中で、森先生は圧倒的に必至のかけ方がうまかったのです」

木村十四世名人がいなかったら

中村太地王座
中村太地王座

 先崎九段は中村太地王座との共著で今年7月、『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』(マイナビ出版)を出版した。この中には全部で13局の名勝負が収録されているが、最初に来るのが1950年の木村義雄名人対大山康晴八段(肩書はいずれも当時)の第9期名人戦である。

 「関根金次郎十三世名人が名人を返上し、世襲から実力制へと名人戦が移行した後、大変な混乱があった時に出てきたのが木村十四世名人でした。木村十四世名人は人望、組織をまとめる力、将棋の実力の全てを持っていました。新聞社にスポンサーになってもらって支えてもらうという今に続く形を作ったのが木村十四世名人です。

 木村十四世名人がいなかったら、現在の将棋界は今とは違った形だったと思います。少なくとも、囲碁と同等ではなかったでしょう。

木村義雄十四世名人。今の将棋界の基礎を作り上げた
木村義雄十四世名人。今の将棋界の基礎を作り上げた

 木村先生が45歳の時、27歳の大山先生を迎え撃ったのが第9期名人戦です。当時、27歳で名人挑戦というのは大スターであるわけです。その人を45歳のおやじがやっつける。人望で将棋界をまとめあげた大名人が、将棋の力も一級品であったことを証明しています。

 20世紀に指された将棋は序盤のところが雑な印象を受けます。そこはみんな同じなので、中終盤のねじり合い(力比べ)が多くなります。

 あと、昔は勉強方法が少なかったせいか、棋士はあまり勤勉ではなかったですね。だから、多くのエピソードが生まれたのではないでしょうか。昔の棋士は、年に2場所しかなかった頃の関取みたいに優雅でした。まあ、あまりお金はありませんでしたが」

プロフィル
先崎 学(せんざき・まなぶ)
 1970年6月生まれ。青森県出身。米長邦雄永世棋聖門下。87年、四段(プロデビュー)。91年、第40回NHK杯戦で優勝。2014年、八段昇段後250勝となり、九段に昇段。A級在位2期。棋戦優勝2回。主な著書に『一葉の写真―若き勝負師の青春』(1992年、講談社)、『今宵、あの頃のバーで』(2011年、日本将棋連盟)、『千駄ヶ谷市場』(同)などがある。18年7月、中村太地王座との共著で『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』(マイナビ出版)を出版。


 『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』についてはこちら

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37426 0 深読み 2018/08/20 15:36:00 2018/08/20 15:36:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180820-OYT8I50021-T.jpg?type=thumbnail

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