合憲性巡り紛糾 「ブロッキングありき」の事務局案

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立法事実、有効性…積み残された論点

6月から複数回開かれた検討会
6月から複数回開かれた検討会

 当初予定していた検討会は、残すところあと1回。8回目となる9月19日には中間報告がまとめられる見通しとなっている。著作権教育や広告規制、利害関係者による協力体制の構築など、様々な対策案について議論が深められたが、ブロッキング法制化についてはいくつもの論点が積み残されたままだ。もっとも大きな問題は、合憲性の問題だろう。

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 先ほどの4つの要素の判定基準は実際には以下のようなものだ。「ブロッキングが合憲といえるのは、(1)具体的・実質的な立法事実に裏付けられ、(2)重要な公共的利益の達成を目的として、(3)目的達成手段が実質的に合理的な関連性を有し、(4)他に実効的な手段が存在しないか著しく困難な場合に限られる」

 このうち、(1)の立法事実とは、どうしてその法律が必要なのか、法律を作るための根拠となる事実のことだ。その法律が合憲といえるためには、具体的・実質的な立法事実に裏付けられる必要があるが、今回の場合、海賊版サイトによる被害認定一つとっても疑問が解消されていない。犯罪対策閣僚会議は4月13日、漫画村など海賊版サイト3サイトへのブロッキングを「適当」と決定した際に、漫画村による被害を約3000億円とする権利者団体の推計を示している。これは漫画村のアクセス件数に、正規の単行本や雑誌の販売単価を掛け合わせたものだが、著作権法を主な業務分野とする上沼紫野弁護士は「著作権法の規定する損害推定方法には当てはまらない。数量に利益を掛け合わせる方法に近いようにも見えるが、サイト閲覧の場合には適用されないし、無料の場合はさらに減額される」として、権利者団体の推計は過大だと指摘する。

 一般財団法人・情報法制研究所が関係省庁に情報開示請求した結果、この資料には、3月29日に作成された素案があり、ここには異なる被害額が記されていたことも分かった。素案には、大手出版社A社が売上高20~40%の減少で数十億円以上、大手電子書店2社は合わせて20億円以上との被害額が書かれている。「漫画村被害は全体で3000億円」との公表データとは印象に大きな差があるが、事務局は「出版社の希望もあって詳細は明かせない」としており、変更の経緯は分からない。

 このほか、海外でのブロッキングの導入状況や、ブロッキングの効果についても、様々な疑問が提起されたが、まだ明確な回答は得られていない。

 また、9月13日の検討会では、合憲性判定基準の(4)「他に実効的な手段が存在しないか著しく困難な場合に限られる」が満たされていないとの指摘も出た。森委員は「まさにこの検討会で俎上(そじょう)にのっている新しい手段については、まだ効果が検証されていない状態。つまり、実効的な手段が存在しないかどうか分かっていないのだから、違憲の疑いが払拭されたとはいえない」と批判した。

 

議論の仕切り直しを

 対立の印象ばかりが目立った検討会だったが、唯一良かったのは、権利者と通信事業者、様々な分野の専門家が顔を合わせ、日本のコンテンツ産業を守るために知恵を出し合う場が設けられたことだろう。権利者や通信事業者だけでなく、広告事業者やIT企業、検索事業者など、様々な立場の利害関係者が参加する協議体制を作るという意見に、反対する委員は誰一人いなかった。

 インターネット時代の知的財産の保護のあり方、そして、ネット社会の自由やITビジネスの育成、技術の進展とともに変化が求められている通信の秘密のあり方という、それぞれに大きなテーマが複雑に交錯する問題である。委員からは「様々な利害が対立し、必要な専門知識が多岐にわたるこの問題を、知的財産権を守ることに主眼を置く組織が事務局を務めること自体に限界がある」との指摘もでている。同感だ。知的財産のみならず、通信やIT、広告ビジネスなど広い視野と専門性をもつIT戦略本部などに場を移して、仕切り直すべきではないだろうか。

プロフィル
若江 雅子(わかえ・まさこ)
 読売新聞編集委員。北海道支社、社会部などを経て現職。サイバーセキュリティーやネット関連の事件取材などを数多く手がける。

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