海外で嫌われる…日本発の“外来種”

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ヒアリも原産地では「いじめられっこ」だった

 日本国内では、外国産の外来生物が繁栄するのを見て、「やはり外国の生物の方が日本の生物よりも強いから、日本の生物が負けてしまうのだ」と思う人も少なくないと思われます。

 しかし、これまで紹介してきたように、日本国内では地味に生きている動植物あるいは微生物でも、いったん海外の新天地に持ち出されると、そこにすむ外国の生物たちを蹴散らし、「強い外来生物」として猛威を振るっているのです。同様に、日本で猛威を振るう外国産の外来生物たちも、原産地では、意外なほど弱い存在で、見つけるのが困難なほどひっそり生きていることが多いのです。

 カエルツボカビを例にとれば、日本国内ではこの菌は日本産両生類のごく一部の種に低頻度でしか寄生しておらず、カエルやイモリの体全体に感染が広がるケースはほとんどありません。これは日本の両生類はカエルツボカビ菌との共進化を経ているので、菌に対する免疫機能を発達させており、感染したとしても足先などの体のわずかな部分にしか寄生が起こらないからなのです。

 また、日本の野外環境には多様な菌類・細菌類が競合種あるいは天敵種として生息しており、カエルツボカビの「独り勝ち」を許しません。

 そんな日本の環境でひっそり生きていたカエルツボカビ菌も海外に渡った途端、競合する菌類がいない環境と免疫のない両生類という絶好の繁栄条件に巡り合うことで、パンデミックを引き起こすことになったのです。

 昨年から日本への「侵入」が発見されて話題になっているヒアリは、強い増殖力と攻撃性が特徴とされ、その侵入と分布拡大が世界中で恐れられていますが、本種もまた原産地のブラジル・アマゾンでは数多くいる競合種や天敵種によって、資源が豊富なジャングルから追い出されて、河川敷で洪水や氾濫のリスクにさらされながら、ひっそりと生息していることが知られています。

 競争相手や天敵から解放されて、新天地の市街地や公園でのびのびと生きている外来ヒアリの姿は、さながら「いじめられっこ」だらけの学校から越してきて、新しい学校でいきなり才覚をあらわし、「番長」にのし上がった転校生のように映ります。

無関心ではいられない、外来生物の「輸出」

日本の国際港湾に積載されたコンテナ(国立環境研究所提供)
日本の国際港湾に積載されたコンテナ(国立環境研究所提供)

 すべての生物には本来の生息地があり、その生息地固有の環境で様々な生物同士が共進化を経て、競合・捕食・寄生など多様な生物間相互作用によってバランスが維持された生態系を構成しています。外来生物とは、共進化の歴史からかけ離れた生物移送を人間がもたらし、生態系のバランスを崩すことで生み出される“人為的な”問題なのです。

 経済の国際化が進む中で、すべての国が外来生物の被害を受ける立場と被害をもたらす立場の両方に立っています。今後、外来種の拡大を防ぐためにも、「自国に入れない」という対策のみならず、「自国から出さない」という対策を各国で進めていくことが重要ですが、国家間の経済競争が激化する現在、いずれの国もわざわざ輸出相手国の利益を守るために、外来種の持ち出し防止にコストをかけようとは思わないことでしょう。

 例えばヒアリはコンテナなどに紛れて持ち込まれるケースがほとんどであり、輸出国サイドで出荷前にコンテナの検査・管理を徹底するだけでも、このアリの持ち出し・持ち込みリスクは大幅に低減すると思われますが、どの国もそんな手間をわざわざとってくれません。

 しかし、一方でこのまま各国からの外来生物の「輸出」を放置し続ければ、世界全体の生態系システムや社会システムに障害が生じて、結果的には各国の経済成長が妨げられることにもつながると考えられます。

 生物多様性の保全という観点からのみならず、世界経済の持続的な発展および維持のためにも、すべての国が外来生物の輸送に対して責任を負う必要があり、今後、「外来生物条約」ともいうべき国際的な規制の枠組みが実現されることが望まれます。

 

プロフィル
五箇 公一(ごか・こういち)
 1965年、富山県生まれ。京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了後、民間の農薬メーカーを経て、京都大学で博士号(農学)を取得し、96年に国立環境研究所入所。専門は保全生態学、農薬科学。主な著書に「クワガタムシが語る生物多様性」(集英社)、「終わりなき侵略者との闘い~増え続ける外来生物~」(小学館)などがある。テレビや新聞などを通じて生物多様性・生態リスクの啓発にも努める。

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45370 0 深読み 2018/10/08 07:00:00 2019/02/12 16:06:20 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181003-OYT8I50065-T.jpg?type=thumbnail

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