ノーベル平和賞、ナディアが私に見せた素顔

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どこに行ってもマイノリティー

シンジャール山頂にあるヤジーディの寺院(C)Noriko Hayashi
シンジャール山頂にあるヤジーディの寺院(C)Noriko Hayashi

――林さんが取材した時と比べて、ISの勢力は大きく後退しましたが、ヤジーディの人たちに平和は戻りましたか。

 「今どこに住んでいるかによって違ってくると思います。自分たちの祖先が暮らしてきたシンジャール山から、何があっても離れたくないという人もたくさんいます。

 でもこの先、どうなるかわかりません。ISが撤退した後、PKK(クルド労働者党)やイラク軍など、いろいろな勢力が入り込んできました。ISという共通の敵がいなくなった後、土地を巡ってどんな争いが起きるかわからないという不安があると思います。

 ドイツに行ったヤジーディの人たちは、想像していた以上にドイツ政府が手厚く受け入れてくれたことに感謝しています。ただ、私が取材をしたドイツ南部在住のヤジーディの女性によると、自分が住んでいる町にISの元戦闘員が難民として逃れてきているようです。ある女の子は、自分を拘束していたISの元戦闘員にドイツの町でばったり鉢合わせをしてしまい、こんなところにいることはできないと思って、イラクに帰ったそうです。

 彼女が暮らしているドイツの施設の近くでも、ISの元戦闘員あるいは支持者によって『お前たちがどこにいるか知っている』みたいなことが壁に書かれているのが見つかり、彼女たちが震え上がったということがありました。

 そういうことも起きているので、ドイツに来た難民、もちろん、すべてが悪い人ではないのですが、ISの元戦闘員らが交じっている可能性があるので、完全に安心だと言い切ることはできません。故郷を失ってしまった悲しみ、肉親らが殺されたことによる心の傷を抱えながら生きている人たちもたくさんいます。

 写真集を出した後ですが、アメリカでも取材をしました。私の通訳の一家はアメリカに移住していました。ネブラスカ州にはヤジーディのコミュニティーができています。

 イラク戦争の後、イラク北西部でも米軍が活動していました。アラブ人の通訳の中には、過激思想に染まって基地内で自爆テロを起こすような人が紛れ込んでいる可能性があり、イスラム過激派ではない、ヤジーディの多くの若者が通訳として米軍に雇われていました。

 かつてアメリカのために働いたヤジーディがISに攻撃されたので、当時のオバマ政権はヤジーディの人たちとその家族をアメリカに受け入れるというプログラムを始めました。ただ、アメリカでは生活環境がイラクの山奥とは全く違います。薬は高いし、車がないとどこにも行けません。社会がシステム化されすぎているところが自分には合わないと言って、高齢のヤジーディの中にはイラクに帰った人もいます。

 どんなに安全と言われるところにいても、やはり昔あった暮らしは絶対に戻ってきません。これからどうなるか、私もすごく気になっています。

 あるヤジーディの人が言っていたことが印象に残っています。自分たちはどこに行ってもマイノリティー。イラクでも、ドイツでも、アメリカでもそうです。常に少数派であることを意識しながら、伝統や信仰を守って生きています。同胞が何十万人もいたシンジャール山から世界中に散らばって、これからどうやって自分たちのアイデンティティーを次の世代に引き継いでいくのか、自分たちにもわからない……」

プロフィル
林 典子( はやし・のりこ
 フォトジャーナリスト。1983年生まれ。国際政治学、紛争・平和構築学を専攻していた大学時代に西アフリカのガンビア共和国を訪れ、現地の新聞社で写真を撮り始める。著書に『フォトジャーナリストの視点』(雷鳥社)、写真集に『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社)、『ヤズディの祈り』(赤々舎)などがある。2012年、DAYS国際フォトジャーナリズム大賞1位など受賞多数。英国のフォトエージェンシー「Panos Pictures」所属。

『ヤズディの祈り』(赤々舎)
『ヤズディの祈り』(赤々舎)


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無断転載禁止
50709 0 深読み 2018/11/24 07:00:00 2019/01/22 16:16:49 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181121-OYT8I50087-T.jpg?type=thumbnail

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