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翼を広げると約2.4メートル。海に浮かぶ姿は「女王」のごとく優雅だが、陸に上がればヨチヨチ歩き……。北太平洋最大の海鳥・アホウドリは、その美しい羽毛とのんびりした生態ゆえに人間に乱獲され、絶滅の危機に追い込まれた。わずかな生き残りたちを守り、数千羽の規模まで戻した復活劇の立役者が、東邦大学名誉教授の長谷川博さん(70)だ。長谷川さんは先月から今月にかけて、東京から500キロ以上離れた鳥島に125回目の渡航を行い、40年以上にわたった現地調査にピリオドを打った。何が長谷川さんを突き動かしてきたのか。科学ジャーナリストの三島勇さんが解き明かす。
「やり切ったという感慨しかない」

12月8日、アホウドリの調査のため、伊豆諸島の孤島・鳥島に入っている長谷川さんに電話をすると、衛星携帯電話越しに明るい声が響いた。
「やり切ったという感慨しかない。8年後に1万羽になったときにクルーズ船で見に来るよ」
長谷川さんは、半世紀近い時間をアホウドリ保護にささげた。その熱い心が支援の輪を広げ、アホウドリの奇跡的な再生につなげていった。42年間で125回、集団営巣地(コロニー)のある鳥島に渡った。そして今年11月から12月にかけて、最後の現地調査を終えた。
この機に、長谷川さんの半生をたどり、決して容易ではなかった「アホウドリ再生への道」を知っていただきたい。
哀しい鳥
私は読売新聞の記者時代、長谷川さんに同行し、鳥島に渡った。青空を滑るように飛んだり、海上にゆったりと浮かんだりしているアホウドリたちを見ていたら、
――白鳥(しらとり)は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
という若山牧水の歌を思い出した。

アホウドリの「歴史」は、まさに「哀しからずや」であった。
アホウドリは成鳥になると全長1メートル余り、翼を広げると約2.4メートルにもなる。北太平洋で最大の海鳥だという。
成鳥は、背が純白で、頭頂部は黄金色の羽毛に覆われ、羽は白色と黒色が混じっている。大きな
しかし、一度、地を離れると、脚を胴体に格納し、翼を自在に動かし、堂々とした姿で滑翔する。海に降りると、泰然自若として波の揺らぎに身を任せる。その姿は優雅で、こちらの心も落ち着かせる。まさに「海の女王」だった。