1994年生まれ「羽生結弦世代」最強説を追う

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常識を覆し、道なき道をゆく

平昌オリンピックで獲得した金、銀、銅、三つのメダルを手に笑顔を見せるスピードスケートの高木美帆(韓国・平昌で、2018年2月25日撮影)
平昌オリンピックで獲得した金、銀、銅、三つのメダルを手に笑顔を見せるスピードスケートの高木美帆(韓国・平昌で、2018年2月25日撮影)

 この世代が残してきた成績を簡潔に記したが、「史上初」という言葉が頻発するのに気づいたのではないか。彼らは各競技において、従来の成績を塗り替え、「パイオニア」と呼ぶにふさわしい活躍をしている。しかも、多くの選手が国際舞台で、華々しい成果をあげている。

 また、大谷が二刀流によって驚きをもたらしたように、従来の常識を覆してきた選手が多い。そこに、1994年生まれ、つまり羽生世代の特徴の一つがある。

 これまでも同じ年に名選手が何人も生まれ、「○○世代」と呼ばれたことはあったが、松坂大輔を筆頭とする「松坂世代」が野球界の話であるように、一つの競技の中にとどまってきた。それに対し、これだけ多くの競技で選手たちが活躍しているという点もまた、羽生世代の特徴だ。

 ではなぜ、94年生まれはスポーツにおける黄金世代となることができたのか。

 彼らに共通するのは、海外で活動する日本選手の姿を幼少期から目にしてきたことだ。例えば2001年、イチローがメジャーリーグに移籍し、試合がテレビで中継され、ニュースでも再三取り上げられた。その後も後に続く選手たちが多くいた。

 1998年にはサッカー日本代表がワールドカップに初出場を果たし、その後、中田英寿らが海外に移籍した。彼らの活躍もまた、テレビなどで伝えられた。

 そうした光景を、子供の頃から見聞きしてきた94年生まれにとっては、世界は身近なものであり、自然に目を向ける存在でもあった。彼らが肩肘張らず、気負うことなく国際舞台に飛び出していける理由である。グローバル化に沿った世代とも言えるだろう。

リオデジャネイロ五輪の競泳・男子400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した萩野公介(2016年8月6日撮影)
リオデジャネイロ五輪の競泳・男子400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した萩野公介(2016年8月6日撮影)
水泳の世界選手権、競泳男子400メートル個人メドレーで優勝した瀬戸大也(ロシア・カザニで、2015年8月9日撮影)
水泳の世界選手権、競泳男子400メートル個人メドレーで優勝した瀬戸大也(ロシア・カザニで、2015年8月9日撮影)

ゆとり教育で育まれた個性

 彼らが「ゆとり教育」のまっただなかの世代であることも見逃すわけにはいかない。

 ゆとり教育の気運は1970年代から起こっているが、特に大きかったのは2002年度から小中学校で取り入れられた新学習指導要領である。学習内容が3割削減されるとともに完全週休2日制となり、「総合的な学習の時間」も新設された。生徒が自発的に課題学習を行う時間のことだが、その内容は学校に委ねられた。

 導入された背景には、それまでの詰め込み教育への問題視とともに個性を伸ばす志向があったという。

中国・南京で開かれたバドミントンの世界選手権に出場した奥原希望(2018年8月1日撮影)
中国・南京で開かれたバドミントンの世界選手権に出場した奥原希望(2018年8月1日撮影)
日本人で初めてバドミントンの世界選手権で優勝した桃田賢斗(中国・南京で、2018年8月3日撮影)
日本人で初めてバドミントンの世界選手権で優勝した桃田賢斗(中国・南京で、2018年8月3日撮影)

アジアパラリンピック大会、車いすテニス女子シングルスで金メダルを獲得した上地結衣(ジャカルタで、2018年10月12日撮影)
アジアパラリンピック大会、車いすテニス女子シングルスで金メダルを獲得した上地結衣(ジャカルタで、2018年10月12日撮影)
ユニホーム姿を披露する渡邊雄太
ユニホーム姿を披露する渡邊雄太

 だが、「学力低下が生じている」という批判が高まり、2008年度にはゆとり教育からの転換が図られ、実質的にゆとり教育は終焉(しゅうえん)を迎えた。

 ゆとり教育のもとで育った子供たちが成長するにつれ、「集団行動がとれない」「自分勝手」といった指摘もされ、ゆとり教育は失敗だったとされた。

 ただ、それらを裏返せば、個性豊かな子供たちが育った、ということでもある。1994年生まれは、まさにゆとり教育の中心にいた世代だ。個の力が問われるスポーツにおいては、功を奏したと言えるし、ゆとり教育の恩恵を受けたと言えるだろう。

 そんな彼らの先頭に立つのが羽生だ。

 2012年、高校2年生にしてカナダ・トロントに活動拠点を移し、14年のソチ冬季五輪で金メダルを獲得するなど、いち早く国際舞台で活躍。しかも、しっかり自己表現のできる選手であることでも注目されてきた。自分の考えを持ちつつ、いち早く海外へ飛び出した羽生は、1994年生まれの特徴を象徴し、また、同世代の目標となった。だから、他の誰でもない、「羽生」世代なのである。

 競技が違っても、多くのアスリートが羽生に刺激を受け、羽生の後を追うように(ひのき)舞台でのびのびと力を発揮している。

 羽生は日本のスポーツ界に新しい道を切り開いた。それぞれの分野で奮闘する羽生世代の選手たちの姿は、後から進む者にとって格好の道しるべとなるだろう。

 

プロフィル
松原 孝臣(まつばら・たかおみ)
 スポーツライター。1967年、東京生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て「Number」の編集に10年間携わり、フリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材を続け、夏季は2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン、16年リオ、冬季は02年ソルトレークシティー、06年トリノ、10年バンクーバー、14年ソチ、18年平昌の各大会で現地取材にあたる。著書に『フライングガールズ―高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦―』(文藝春秋)、『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

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59919 0 深読み 2019/01/03 07:00:00 2019/01/03 07:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181227-OYT8I50092-T.jpg?type=thumbnail

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