認知症の80歳がCDデビュー、英国で起きた奇跡

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 認知症は本人にとっても家族にとっても出口のないトンネルだ。その闇に光が差し込むような出来事が2016年秋、英国であった。アルツハイマー型認知症を発症した男性が、80歳でCDデビューを果たしたのだ。夢の実現までにはどんな物語があったのか。男性の息子で、ノンフィクション『父と僕の終わらない歌』の著者であるサイモン・マクダーモットさんが書面インタビューに応じてくれた。(取材・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

父親の変わりようにショック

ステージで歌うテッド
ステージで歌うテッド

 サイモンが離れて暮らす父親の異変を知ったのは、2012年ごろのことだった。父親のテッドはその時、70代後半。最初は年のせいだと考えていたが、事態は坂道を転げ落ちるように悪化していった。

 「母から電話があって『お父さんが忘れっぽくなったの』と言われたのは、私が南アフリカに住んでいた時でした。でも、その時の私は、父が年をとっただけだと思い、深刻には受け止めませんでした。

 最初の頃、父に出た症状は、ものの名前や場所が出てこないといった単純なもの忘れや、同じ話を何度も繰り返す、といったものでした。しかし、事態が進行すると、父は次第に怒りっぽくなり、暴力をふるったり、周囲に当たり散らしたりすることが多くなりました。

 父は決して暴力的な人ではありませんでしたし、母を殴ったこともありません。母の話を聞いて、父の変わりように大きなショックを受けました」

14人きょうだい、にぎやかな家庭で育つ

 テッドは1936年、英国中部のウェンズベリーで生まれた。父親は工場労働者で、しっかり者の母親が家事を切り盛りしていた。テッドの後には弟や妹が次々と生まれ、きょうだいは全部で14人。暮らしは裕福ではなかったが、家の中はいつもにぎやかだった。

 「父はいつもその場の中心にいる人でした。今でもそうです。どんな人にでも話しかけ、相手がどんな人であろうと、対等に接しました。

 社交的な人だったことは確かですが、とても繊細で優しく、人の気持ちがわかる人でもありました。他人が不当に扱われたと感じた時などは、正義のために立ち上がることを恐れませんでした。何か問題が起きた時、あるいは誰かが病気になった時、真っ先に駆けつけたのが父でした」

かなわなかった歌手の夢

リンダ(中央)とテッド(右)=1975年撮影
リンダ(中央)とテッド(右)=1975年撮影

 テッドは早くから家計を支えた。中学校を卒業すると、工場で働くようになった。週末になると、教会の青年部が開くイベントやパブに友人らと繰り出した。そこで音楽に出会い、やがて自ら歌うようになる。テッドの歌声は評判を呼び、毎週のようにステージに立っていたが、大切なのは家族。プロの歌手になるという夢は封印していた。

 「父が本当に夢見ていたことは、有名になることだったとは思いません。父は、ただ歌うことが好きだったのです。歌う場所が大きなイベントであっても、田舎のクラブであっても、関係ありませんでした。

 ただ、父も何度かあった有名になるチャンスを逃したことは認識していたと思います。14人きょうだいの長男として、家族の面倒を見ることは自分の義務であると感じていたのでしょう。父にとって、いつも一番に来るのは家族のことでした」

 

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177603 0 深読み 2019/01/22 12:22:00 2019/01/22 12:22:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190122-OYT8I50009-T.jpg?type=thumbnail

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