気分はターミネーター?現場で大活躍の「MR」
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MRは、Mixed Reality(複合現実)の略で、ゲームなどでおなじみのVR(Virtual Reality=仮想現実)や、軍事技術や商品PRなどで利用が進むAR(Augmented Reality=拡張現実)とは、「似て非なる」技術だ。MRは様々な仕事の役に立つとされ、特に危険を伴う作業などでの活躍が期待されている。今後、どんな発展が見込めるのだろうか。開発の現場を取材した。
まるで「ターミネーター」
コンクリート打ちっぱなしの殺風景な室内。灰色の壁のほかに目に付くのは、むき出しの配線コードやメーター類ぐらいだ。
しかし、「HoloLens(ホロレンズ)」と呼ばれるゴーグルを装着し、システムを起動すると、そんな光景の手前に鮮やかな表示が浮かび上がった。視界の左右には「作業支援」「オーバルメニュー」などのボタン類が並び、地面には「>>>」の記号が現れた。その向きが進むべきルートを示している。人気映画「ターミネーター」シリーズで描かれた、アンドロイドの目で見た景色のようと言えばわかりやすいだろうか。

ここは都内にある東京電力の変電施設。同社と、CG(コンピューターグラフィックス)などを手掛けるベンチャー企業「ポケット・クエリーズ」(ポケクエ=東京)が共同開発する「MR」を使った作業支援システムの実証実験の拠点だ。
筆者は今年1月中旬、取材に訪れ、実際にシステムを体験させてもらった。米マイクロソフト社製のホロレンズは重さが約600グラム。装着する人と周辺の物体との位置関係を正確に把握するために四つのカメラや「深度センサー」などを搭載している。ヘルメットも着用するため多少の重みを感じるが、「ずっしり」というほどではない。システムを起動すると、現実の世界とバーチャルな情報が重なって表示される。
現実世界と仮想世界が「融合」
表示されたルートに沿って歩いていくと、変電関連の機器の前にたどり着いた。目の前に浮かぶ「作業支援」のボタンに指を伸ばすと、その動きに合わせて小さな点状のカーソルが動いた。
ボタンを押すには、スマートフォンでおなじみの「ピンチアウト(指をつまんで広げる動作)」に似た操作をする。次々に選択肢を選んでいくと、機械の図面の画像や、作業する人を映した動画などが表示された。紙の資料や別の端末を取り出すことなく、ガイドや“お手本”を目にすることができるのだ。チェックを付けておけば、他の作業者も共有することができる。
離れた場所から、人による支援を受けることも可能だ。「制御所」にいる職員が、ホロレンズ上の表示で誘導したり、スピーカーやマイクを通じて指示を送ったりなどのやり取りも可能だという。
ホロレンズを装着して約5分後、少し雰囲気になじんできた筆者を驚かせる出来事があった。隣の部屋に入るや否や、突然、ど派手な紅白の網かけと「立入禁止」の大きな文字が視界を覆った。それでも足を踏み入れようとすると、大音量のアラームが耳元で鳴り響いた。危険防止のための警告だ。変電所内には6万ボルトもの高圧電流が流れている。「安全上、どの機器に触れても問題がないような構造になってはいるが、行く必要のない部屋には行かないように指示する」(東電経営技術戦略研究所・大木功主幹研究員)仕組みだという。