聖地巡礼を通せんぼ?便利なIC乗車券のはずが…
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JRの境目と生活圏は一致しない!

――スイカは、JR東海やJR北海道など、他の鉄道会社でも使えるようになったはずでは?
その通りです。スイカや首都圏の民鉄系カード「パスモ」、関西圏の民鉄系カード「ピタパ」、JR北海道の「キタカ」など10種類のICカード乗車券は、2013年3月から、他地域でも利用できるようになりました。例えば札幌に住む人が出張で関西に来て、大阪の民鉄線に乗る時にキタカを使うことはできます。
ただし、異なるエリアをまたいでの利用ができないのです。
――昨年3月には、静岡県熱海市と伊東市の市長がJR東日本などを訪ね、スイカと、JR東海のICカード乗車券「トイカ」の相互利用が可能になるよう要望しました。「通勤・通学などの日常的な利用に加え、東京五輪・パラリンピックの開催などで伊豆半島への観光客の増加が予想される」と改善を求める理由を挙げています。
確かに不便だと思います。人の生活圏は、JRの境界線で区切られるわけではありません。今も沼津から東京方面への直通列車があるぐらい、国鉄分割以前と同じく、関東方面への需要があります。
同じことは、JR東海とJR西日本についても言えます。東海道線では、滋賀県米原市の米原駅が両社の境です。トイカやJR西日本の「イコカ」を使い、米原駅をまたいだ区間で乗ると、改札を出られない事態が生じるわけです。
それどころか、同じJR会社線の中であっても、エリアをまたぐと改札を出られない場合があります。例えば、JR東日本の東京エリアと、仙台エリア、新潟エリアは、スイカなどで相互に乗り降りできません。ただしこちらは昨今、在来線だけを乗り継いで東京―新潟や東京―仙台、新潟―仙台を、「青春18きっぷ」など格安きっぷを使わずに正規運賃で利用する人がほとんどいないため、目立った話になっていませんが。
――そもそもICカード乗車券のシステムは、各社とも同じはず。相互利用が進まないのはなぜでしょう。
ICカード乗車券に対応する改札機の仕組みからある程度、推測はできます。
ICカード乗車券による乗降情報を瞬時に処理するためには、改札機に駅データと運賃計算データを持たせておく必要があります。ところが、JR東日本を含む東京エリアは、駅の数と運賃計算データが膨大です。現時点では、処理量が限界に達し、物理的にこれ以上対象エリアを広げることができないのではないでしょうか。
処理量が限界に達していると推測する根拠の一つが、JR南武支線(尻手―浜川崎)に2016年開業した小田栄駅(川崎市川崎区)です。この駅で乗り降りした後に利用履歴を印字すると、スイカには隣の川崎新町駅から乗降したと記録され、小田栄駅の名前が出てきません。