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    生活

    見逃さないで! あなたを襲う「キラーストレス」

    産業医、日本ストレスチェック協会代表理事・武神健之
     なんとなく心が塞ぐ、やる気が起きない、生きていても仕方がないとさえ思えてしまう……。こんな心の不調を引き起こすのが、長時間労働、人間関係、親の介護などさまざまなストレスだ。ストレスをうまくやり過ごせればいいが、今の世の中ではそれもなかなか難しい。そんなストレスとの上手な付き合い方について、現役産業医で年間1000人以上の健康相談に応じている武神健之さんに解説してもらった。

    • (写真はイメージ)
      (写真はイメージ)

     読者の皆さんは日ごろ、どんなストレスを感じていらっしゃいますか? 仕事上のこと、友人や近所との付き合い、はたまた家族のことでも……。何にストレスを感じるかは人それぞれですが、今の世の中は、深刻な心の病を引き起こしかねないストレスがいたるところに蔓延(まんえん)しているのが現状です。

     某大手企業の営業部に勤務する入社3年目のBさん(28歳)が私のもとへ相談に来ました(年齢は相談当時)。

     私「こんにちは。どうされましたか?」

     Bさん「……」

     私「じゃあ、僕から聞かせてください。大抵、産業医面談に来られる方は、自分から相談したいことがあるか、上司や人事に言われてくるかですが、Bさんはどちらですか?」

     Bさん「えーと、上司に産業医面談へ行くように言われました……。でも私、どこも悪くありませんよ」

     私「上司は、Bさんのどういうところを見て勧めたのですか?」

     Bさん「先週、定例のミーティングで、私が泣いたからだと思います」「チーム内で比べると、私の成績が振るわないのです。『指示したことができていない』『ぼーっとしていることが多い』などと言われ、反論できずに我慢していたら、涙が出てきてしまったのです」

     2年前に営業部に異動したBさん。学生時代は成績優秀、周りからも評価されて育ちました。常に他人と比較される偏差値教育の中で、自分自身が“優秀な人間”であると感じていました。しかし、社会に出てみると勝手が違う……。優秀な人材が集まる会社では、できる社員がごまんといる。

     その中で、たとえ真ん中あたりにいたとしても、平均程度かそれ以下の評価にしかならない。ついつい他人と比べてしまうのが、Bさんの悪い癖。ともに頑張っていた同期とボーナス額を比べたら、自分の方が少ないことにショックを受けました。その後、同期に負けないように頑張ろうと意識すればするほど振るわない。負のスパイラルに陥ってしまったのです。

     Bさんは、他人と比べて仕事の成果が振るわないことに焦りや不安を強く感じ、そのストレスが「心の症状」となって表れたと考えられます。他人を意識しすぎる人に多い症状です。

    ストレス反応の表れ方は“十人十色”

    • ストレスの表れ方(表現形式)には、精神症状、身体症状、行動の三つがあります(筆者提供)
      ストレスの表れ方(表現形式)には、精神症状、身体症状、行動の三つがあります(筆者提供)

     ストレスが“ある許容範囲”を超えると、その反応は「心」か「体」か「行動」のいずれかに表れます。この三つの中で、Bさんのように「心の症状(精神症状)」に表れた場合は、注意が必要です。治療開始が遅れ、正常な社会生活に支障が出るばかりでなく、生命に危険が及ぶ場合もあるからです。

     また、どのようなストレスが原因でストレス反応が表れるかは、“十人十色”といえます。Bさんのように「仕事の結果が出ない」「仕事で昇進できない」ことにストレスを感じる人もいれば、それとは真逆で、「昇進した」ことがプレッシャーとなりストレスを感じてしまう人もいるのです。上司からの指導を“ストレス”と感じる人もいれば、“激励”や“応援”と捉える人もいます。ストレスには、「いいストレス」も「悪いストレス」もありません。本人の「感じ方次第」といえるのです。

    強いストレスが私たちの生命を脅かす

     いざストレスが「心の症状(精神症状)」となって表れると、Bさんのように泣くことのほかに、やる気が出ない、何をするのも億劫(おっくう)になる、なんとなく気持ちが沈む、イライラする、憂鬱(ゆううつ)な気分になる、喪失感や不安、あせりを感じる、集中力が低下するという症状が表れることもあります。そして、このようなストレスを受け続けると、その症状は時間とともにさらに悪化していくのです。

     最近の研究によると、ストレスを受け続けると、私たちの生命を脅かす危険性があることも明らかになっています。いわゆる「キラーストレス」と呼ばれるものです。知らず知らずのうちに心を(むしば)み、心や体のバランスを(つかさど)っている脳の働きを損なわせ、死に至らしめるケースもあるといいます。

    2016年07月15日 00時19分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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