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    芸能

    デジタル修復、「七人の侍」のここがスゴい

    読売新聞調査研究本部主任研究員 福永聖二

    3時間27分の大作、1コマずつ確認

     映画で原本となるのは、編集されて完成した「オリジナルネガ」。いわゆる写真のネガフィルムと同様で、それを焼いたのが「マスターポジ」となる。このマスターポジから、「デュープ(複製)ネガ」が作られ、さらにそこから上映用のフィルムが作られる。

     「七人の侍」は、映画を管理する東宝で調べたところ、オリジナルネガは見つからず、主にマスターポジとデュープネガを使って作業が行われた。海外映画祭出品のために作られた「短縮版」もあったが、実際に修復作業を手掛けた東京現像所のアーカイブコーディネーター・小森勇人さん(46)によると、マスターポジが最も良い状態で、それをデュープネガと比較しながら作業を進めたという。

     「七人の侍」は通常の映画の2倍ほどにもなる3時間27分の大作。映画のフィルムは1秒当たり24コマの画像でできており、「七人の侍」は全部で29万7407コマあった。

     そのすべてを、どこにどんな傷があるか、欠損している部分はないか、1コマずつ慎重に目で確認していくという根気のいる作業が続いた。この準備作業だけで、スタッフ3人がかりで約1か月かかった。

     入念なチェックの結果、マスターポジにもデュープネガにも、傷や洗浄しても取れないホコリのほか、数コマ欠損している部分がかなりあった。

     人気作とあって、長年にわたって何度も繰り返し上映用フィルムが作られたのが原因だ。新しくデュープネガや上映用フィルムを作るたびに、どうしても傷がついてしまう。

     さらには、日本映画界は長い間、映画を保存するという意識が低く、扱いも乱暴で、短いフィルムに焼き付けるためにマスターポジを切ってデュープネガを作ったこともあったらしい。一度フィルムを切ると、再びつなげるには1コマの「のりしろ」が必要なので、その部分が失われてしまうことになる。

    ぶれた画像も修正

     その後、フィルムの画像をデジタルデータに変換して修復作業に入った。約30万コマを4Kのデジタルデータに変換するスキャニングだけでも3週間もの日時がかかった。そこからまた、1コマずつ傷やホコリ、明暗の状態などをチェックし、3種類のソフトを状況に応じて使い分けながら修復していった。

     「ソフトだけに任せると、本来は雨なのに、ソフトが勝手に傷と判断して消されることもあります」と、東京現像所営業本部の清水俊文営業部次長(47)。

     小森さんも、「明暗などの画調にムラができることもあるため、ひとつ直しては最初から確認するという作業を繰り返し行いました。どんなに技術が発展しても、一番大切なのは人間の目によるチェックです」と語る。

     根気のいる修復作業は約半年間続いた。結局、昨年5月から準備作業に入り、完成したのは今年2月だった。

     その効果を、修復前・後のカット写真の対比で見てみよう。三船敏郎さん演じる菊千代のアップの場面は、右側に縦に走る傷があったが(写真1)、これを修復し、コントラストも強くした(同2)。

    • (修復前)三船敏郎さん演じる菊千代のアップの場面は、右側に縦に走る傷があった(写真1)
      (修復前)三船敏郎さん演じる菊千代のアップの場面は、右側に縦に走る傷があった(写真1)
    • (修復後)傷が修復され、コントラストも強く(写真2)
      (修復後)傷が修復され、コントラストも強く(写真2)

     木村功さん演じる勝四郎が農民の娘と出会う場面では、ぶれた画像(同3)になっていたのを、デジタル加工で焦点を合わせた(同4)。

    • (修復前)木村功さん演じる勝四郎が農民の娘と出会う場面では、画面がぶれていた(写真3)
      (修復前)木村功さん演じる勝四郎が農民の娘と出会う場面では、画面がぶれていた(写真3)
    • (修復後)画像のぶれも修整(写真4)
      (修復後)画像のぶれも修整(写真4)

     雨中の決戦場面は、画像の一部がはがれていたが(同5)、この部分を前後のコマを複製して再生、コントラストも強くなってぼやけていた背景がくっきりと見えるようになった(同6)。

    • (修復前)雨中の決戦場面は、画像の一部がはがれていた(写真5)
      (修復前)雨中の決戦場面は、画像の一部がはがれていた(写真5)
    • (修復後)ぼやけていた背景も見えるように(写真6)。以上6枚の写真はいずれも(C)東宝
      (修復後)ぼやけていた背景も見えるように(写真6)。以上6枚の写真はいずれも(C)東宝

    音声も原音に近い形に

     また、これまでのデジタルリマスターでは、映像の修復が中心で、音声の修復には限界があった。それというのも、音声修復は雑音混じりの音声データをデジタル化して行われていたからだ。

     元々の映画の音はフィルムに焼き付けられている「光学式」。フィルムの状態が悪ければ、そこから再生される音をデータ化すると雑音が増え、修復作業も困難になる。今回は、フィルムに焼き付けられた音声を表す画像を、直接デジタルに変換するソフトを日本で初めて導入した。

     このソフトを使うと、多少フィルムの状態が悪くても、音声用画像そのものを取り込むことができ、より原音に近い形でデジタルデータ化できる。雑音だと思っていた音が、実はセミの鳴き声だった、という「発見」もあった。音が割れたような感じで、何をしゃべっているのかよく分からなかったところがある、三船敏郎さん演じる菊千代の声も、はっきりと聞き取れるようになった。

    2016年10月14日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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