トランプ大統領に感謝? 「東京会議」の危機感と楽観
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民主主義体制の破綻も・・・にじむ強烈な「反省」

その後、英国が国民投票でブレグジットを選択し、米大統領選ではトランプ氏が勝利した。大陸欧州でも17年にフランスやドイツで大統領選や総選挙を控え、大衆迎合あるいは大衆扇動とも言うべきポピュリズムを駆使して支持を拡大しようとするポピュリストの動向に対する懸念がかつてないほど強まっている。「民主主義そのものの危機」さえ、叫ばれるようにもなった。
東京会議実現の推進力となったのは、こうした状況に対して各国の有識者が抱く危機感と、ポピュリズムがこれほど台頭するまで有効な手立てを講じることができなかった無力感をはねのけたいという思いだった。
そのことは、東京会議のレセプションで、新興国の参加者の一人が「トランプ大統領のおかげで、こうして東京に集まることができた」とあいさつした言葉に凝縮されている。
会場からは笑いが起こったが、平時なら、G7に対する提言をまとめることはもとより、10か国もの有力シンクタンク代表が東京に集結し、民主主義を論じる会議を行うこと自体が難しかったかもしれない。それだけ、戦後の国際秩序は「当たり前」のものとして考えられてきた。
「トランプ氏に感謝」という半ば皮肉のこもった発言には、トランプ氏の登場がなければ、これまで当たり前のものとして考えられてきた価値の弱点を見過ごしたまま、突然、自由民主主義体制が破綻することもあり得たという各国識者の強烈な「反省」がにじんでいた。
世界の不安定、日本の安定
自由と民主主義、自由貿易体制、法の支配といった戦後の国際秩序を支えた理念や価値観について話し合う機会が東京で持たれたことも、現在の国際情勢をよく映していると言える。
欧州からの参加者は「ポピュリズムの台頭の背景には、経済情勢の悪化もあった。日本も『失われた20年』がもたらした厳しい経済情勢から脱しきれていないのに、安倍晋三首相のもと、政治は安定し、ポピュリズムも広がりを見せていない」と語り、戦後秩序を支えてきた政治理念や価値観について、どちらかと言えば「受け身」に見えた日本が、これらを積極的に発信することへの期待感をにじませた。

もちろん、日本の政治がポピュリズムと無縁だというのは、いささか正確さを欠いているが、少なくとも欧米諸国には日本がそう映っていることは間違いない。
東京会議に出席したシンクタンク代表は表のとおり。日本からは田中明彦東京大学教授、長谷川閑史・前経済同友会代表幹事、藤崎一郎・前駐米大使らのほか、政府から杉山晋輔外務次官、浅川雅嗣財務官が議論に加わり、岸田外相も講演を行った。
では、各国の識者は、戦後の国際秩序を揺るがしていると受け止められている政治状況について、どんなとらえ方をしていたのだろうか。
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