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「エリート集団」に支えられた金正恩体制

北朝鮮という国家体制の特徴を一言で表現するならば「首領一人のための国家」だ。北朝鮮の統治機構もそうだが、住民一人一人も首領のために存在するというのは国是であり、北朝鮮を建国した金日成主席の時代からの伝統でもある。
金日成時代までは、「首領経済」の恩恵を受けるのは体制を支える約300万人に上る労働党員だった。北朝鮮では労働党の末端組織を「党細胞組織」という。3人以上30人以下の党員を擁する政府機関や各企業所(工場や企業)、農村には必ず、「党細胞」が存在する。このような細胞組織と首領をつなぐ神経系統に相当するのが各級党組織および統治機構である。
首領経済はこの細胞と神経系統に栄養分を供給する役割を果たしたが、このシステムは経済事情の悪化により崩壊しつつある。党員らも生き残りをかけて闇の経済活動に加わっている。
現在、「首領経済」の恩恵を受けているのは、金正恩委員長と運命共同体の権力中枢部にいる人間と、その周囲を固める数万人の幹部と平壌の一部の市民からなる「エリート集団」である。この「エリート集団」が離反しないかぎり、現体制は維持されるのだ。
首領こそが唯一の存在
普通の民主国家ならば餓死者が出ただけでも人々の不満は高まり、政権交替を要求する声が充満するはずだが、北朝鮮でそのような可能性はほぼない。
金正恩委員長の後見人とされた
張氏が処刑される前に読み上げられた「罪状」の中に、そのヒントがある。大きな罪の一つとして、張氏が金正恩委員長を
金委員長が政権の座について以来、実に100人以上の高官が処刑された(韓国情報当局の発表)のは、首領の権威を保つためという理由以外の何物でもない。
北朝鮮では、国が荒廃し、住民が塗炭の苦しみを味わっても、体制維持のためならば、それは応分の犠牲とみなされる。
北朝鮮政府は住民に対し「我々が今苦しい生活を強いられているのは、米国をはじめとする帝国主義の制裁があるからだ。それに立ち向かうために核兵器やミサイルを造っている。それがあれば彼らはわれわれを圧殺することはできない」と主張する。
こうした論理に納得する人が多くいるはずはないが、金委員長に忠誠を誓うエリート集団が健在でありさえすれば、これが国家の論理となり、体制は維持される。
逆に、金委員長にしてみれば、エリート集団から忠誠心を引き出し、結束を図るためにも、核やミサイルを必要としている。核とミサイルがあればこそ、北朝鮮は対外的に存在感を誇示できるし、金委員長の偉大さを見せつけることも可能だからだ。
だから、核とミサイル開発に全てを集中している。このような強硬姿勢をいつまで貫くことができるかは、「首領経済」の台所事情と直接関係するだろう。国際社会が「首領経済」の息の根を止めないかぎり、金正恩体制が崩壊することはない。

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