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    国際

    事実誤認の「対日人権批判」にどう向き合う?

    読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀

    「国連人権理」の役割、「特別報告者」とは?

     そもそも、国連人権理事会の役割とは何で、特別報告者とはどういう存在なのか。

     人権理は人権と基本的自由の促進や擁護を担う国連の主要機関として06年、それまでの人権委員会を格上げする形で発足した。人権が順守されていなければ、当該加盟国に是正を「勧告」する。この人権理に対し、国やテーマ別の人権状況について「報告し、アドバイスする」というのが特別報告者だ。

     特別報告者は自薦、他薦の専門家の中から人権理が任命する。専門的知識が求められるので、学者が選ばれることが多い。国連の代表ではなく、あくまで個人の資格で「廉潔、公平、正直かつ誠実」に、「独立性を保ち、有益な」報告をすることが求められる。任期は最長6年。独立性を担保するため、出張などの必要経費を除き、無報酬だ。

     金銭的対価はないとはいえ、特別報告者を務めたともなれば、専門家として輝かしい経歴となる。人権理によると、今年3月24日現在で北朝鮮、シリア、ベラルーシなど8の問題国と移民、集会の権利、先住民など31のテーマ別に計39人の特別報告者が活動している。このほか、同様の任務を担う「独立専門家」や「作業グループ」が任命されており、全体でみると13の問題国と43テーマが対象となっている。

     ただ、特別報告者は得てして特定の国や地域の専門家ではない。ケナタッチ氏の専門は情報法やプライバシー法、ケイ氏の場合は国際人道法や国際人権法だ。特別報告者の見解や主張が一方的で、必ずしも対象国の実態を反映しないとの指摘はかねてからあった。

     日本関連で見ると、慰安婦問題にからみ、人権理の前身である国連人権委員会に提出された「クマラスワミ報告」が悪名高い。スリランカ人法律家ラディカ・クマラスワミ氏が1996年、「女性への暴力」問題の特別報告者として慰安婦問題の報告書を作成。「慰安婦は性奴隷」という誤った見方を世界に広める結果となった。

     2015年には児童の人身売買や児童ポルノなどに関するオランダ人特別報告者マオド・ド・ブーア・ブキッキオ氏が日本の現状を見るため来日。10月中下旬のわずか1週間の日本滞在最終日の記者会見で飛び出したのが、日本の女子学生の「13%が援助交際を経験している」との発言だ。外務省が情報源や根拠の開示を求めたが回答はなく、政府はすかさず「国際的な誤解を助長する恐れがある」(菅官房長官)という観点から発言撤回を要請した。

    「告発」に依存、被害者の立場で問題提起

     ではどうして、調査対象国の正当な主張や見解が報告に反映されないのだろうか。

     ある外務省幹部は「『被害者』の立場から問題提起するのが特別報告者の存在意義。ものを言わなければ働いていないことになる。ジャーナリストとは違って、一つの情報を様々な角度から裏付けするという作業がいつもなされるとも限らない」と話す。

     特別報告者の主たる情報源は「通報」だ。「告発」とも言い換えられるだろう。例えば「プライバシーの権利」に関する人権理のホームページには「特別報告者あての機密の書状」を寄せるためのメールアドレスが記され、だれでもメールを送れる仕組みになっている。また、寄せられた情報には「ケナタッチ教授が直接、目を通します」とも記されている。

    • テロ準備罪法が可決、成立した参院本会議(後方は金田法相、6月15日午前7時46分)
      テロ準備罪法が可決、成立した参院本会議(後方は金田法相、6月15日午前7時46分)

     クマラスワミ氏の場合、報告の情報源となったのは日本人弁護士らだった。中心にいた弁護士は毎年のように人権委員会のあるジュネーブを訪れ、委員会メンバーと接触していた。ケナタッチ氏のテロ準備罪法案に関する書簡も、日本国内の同法案反対派の主張を色濃く反映したものといえ、何らかの情報提供があったことがうかがえる。

     仮に、複数の「通報」があったとして、どの国を俎上(そじょう)に載せるかを決めるのは報告者だ。「報告者個人の生い立ちや人生哲学、関心が反映される」(外務省筋)といえよう。ケイ氏の場合、14年8月に任命されてから15年までの間にベラルーシ、中国、アゼルバイジャン、サウジアラビアなど、いずれも「人権に難あり」(同筋)の28か国に調査のための訪問受け入れを要請した。実現には該当国の招請が必要だが、いずれの国も応じず、調査は実現していない。16年にはタジキスタン、日本、トルコの3か国がケイ氏の要請を受け入れた。

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    2017年06月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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