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    国際

    事実誤認の「対日人権批判」にどう向き合う?

    読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀

    人権侵害国を監視する「手段」としては意義

     もちろん特別報告者の活動は重要で、有益な場合が大半だ。国連人権理が人権侵害国の状況改善を図るには、報告と非難決議しか手だてがないというのが現実でもある。

     例えば、ケイ氏が16年に訪れた国のうち、タジキスタンは四半世紀もの間、大統領が交代していない独裁国家で、プレスを含む反体制派に対する抑圧が続く。トルコでは昨年7月のクーデター未遂事件後、エルドアン政権がクーデターを首謀したとみなすギュレン師派への弾圧を続ける。政府を批判するメディアへの締め付けも強まっている。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、これまでに約5万人の身柄を拘束、約15万人を公職から追放している。こうした国に特別報告者が目を光らせていることを知らせることは意味があるだろう。

    • 特別報告者のデービッド・ケイ米カリフォルニア大学教授
      特別報告者のデービッド・ケイ米カリフォルニア大学教授

     なぜ、日本を選んだかについては、ケイ氏は読売新聞とのインタビューで「ここ数年、日本のメディア状況への懸念が示されていたので取り上げた。2か国(タジキスタンとトルコ)と同じカテゴリーというわけではない」と説明している。

     一方、日本の国益に直接結びつく有益な報告もある。04年から活動を開始し、現在、3代目となる北朝鮮問題担当特別報告者は、北朝鮮と対峙(たいじ)する日本外交にとって重要な存在だ。特に、マルズキ・ダルスマン前特別報告者(インドネシア出身)は在任中、拉致被害者家族とも面会を重ね、北朝鮮の人権犯罪を国際刑事裁判所に付託することを求めるなど北朝鮮に圧力をかけ続けた。

     ここで、国際人権理事会の成り立ちを改めて振り返りたい。

     人権は第2次世界大戦までは原則として国内問題として扱われてきた。人権が国際社会の表舞台に出るのは、その憲章第1条で「人権と基本的自由の尊重」を目的の一つに掲げる国連の発足以降だろう。国連は発足当時、安全保障理事会(安保理)と経済社会理事会(経社理)を主要機関とし、人権を担う「国連人権委員会」は経社理の下部機関として設置された。

     人権委は人権の具体的内容を定めた世界人権宣言の採択(1948年)や、この中身を条約化する国際人権規約の起草などに大きく寄与した。世界人権宣言は「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることができない権利を承認することは、世界における自由、正義、平和の基礎を構成する」と前文でうたっている。

     一方で、人権侵害国への圧力を強めようとする先進国と、「内政干渉」として反発する発展途上国の政治的対立から、人権委はまもなく不毛な批判合戦の場と化してしまう。

     国連によると、人権委に67年、アパルトヘイト(人種隔離政策)を行っていた南アフリカの人権状況を調査する専門家グループが設けられたのが特別報告者制度のはしりだ。経社理の下部機関だった「人権委員会」は2006年、国連改革の目玉の一つとして理事会に格上げされ、人権理には特別報告者制度もそのまま引き継がれた。しかし、先進国と発展途上国の対立もそのまま持ち越されている。

    「批判にまじめ過ぎる反応示す」日本

     一般論として、欧米や日本など先進国の方が人権を重んじる姿勢が浸透し、法制度も整っているといえよう。特別報告者が、それでも折に触れ、先進国を俎上に載せるのは「問題が多い途上国だけを対象にしていると、途上国グループから不公平でバイアスがかかっていると批判されかねないから」(西欧外交筋)との見方もある。同筋はまた、「日本は特別報告者の批判にまじめ過ぎるほど反応する傾向があるのではないか」とも見る。

     ただ、日本政府にはクマラスワミ報告のトラウマがある。当時の政府が詳細な反論を控えたことが、クマラスワミ報告があたかも信頼すべき事実として広まることにつながったとの反省だ。

     言い方は悪いかもしれないが、人権理の使える部分は使い、誤解や事実誤認に対しては積極的に反論する。その前提として、今後とも人権重視国として恥ずべき点がないように自らの身を律する。それが、人権理や特別報告者との上手なつきあい方なのだろう。

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    プロフィル
    大内 佐紀(おおうち・さき)
     読売新聞調査研究本部主任研究員。1986年入社。主に国際報道に携わり、ワシントン、ジュネーブ、ロンドン各特派員。英字紙ジャパン・ニューズ編集長、編集局次長などを経て2017年6月から現職。

    2017年06月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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