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    科学

    このままでは日本の「サンゴ礁」が危ない!

    読売新聞調査研究本部主任研究員 佐藤良明

    養殖に生かされているDNA研究の成果

     サンゴのDNA解析は、サンゴの驚くべき実態を明らかにした。

     沖縄では、わずかながらサンゴの養殖が行われている。新里准教授の研究チームが、養殖サンゴ155個体を分析したところ、他とは異なる遺伝子の特徴を持っていたのは83体だけだった。残る72体は全く同じ特徴を持っており、二つに一つがクローンということが判明した。一方、自然のサンゴを分析してみると、298個体が全部違う特徴を持っていた。

    • 沖縄県恩納村にあるサンゴ養殖場。金属製台座の上でサンゴを増殖している(座安佑奈博士提供)
      沖縄県恩納村にあるサンゴ養殖場。金属製台座の上でサンゴを増殖している(座安佑奈博士提供)

     DNA解析の研究成果は、サンゴの養殖現場で実用に生かされている。

     沖縄県恩納村の海域では、地元の漁協が金属製台座にサンゴを植え付けて養殖するプロジェクトに取り組んでいる。サンゴの植え付けに際しては、DNA型の異なるサンゴを近くに配置するよう工夫し、個体間で効率的に受精が進むようにしている。多様なサンゴが生息する<自然に近い状態>を生み出そうという狙いだ。

     サンゴの生態には謎が多く、DNA研究も緒に就いたばかりだ。新里准教授は、「サンゴが白化する際にはさまざまなストレスがかかるが、サンゴ側、褐虫藻側でそれぞれ何が起きているのか、詳しくわからなければ対策も取りようがない。そうした研究も進めたい」と、サンゴの再生に向けた研究の意欲を語っている。

     サンゴを取り巻く厳しい状況は、日本だけの問題ではない。

     サンゴ礁は主に豪州・南太平洋や東南アジア地域を中心に分布する。水産庁によると、総面積は地球全体で60万平方キロ・メートルに達する。この中で日本のサンゴ礁は、世界の「北限」とされている。海水温上昇がサンゴの白化に拍車をかけている現状にあって、日本以南の海域の状況がさらに深刻であることは想像に難くない。

    世界的な危機感背景に、活発化する研究

     4月の緊急対策会議でも報告されたが、米海洋大気局(NOAA)は15~16年にかけ、南米ペルー沖の太平洋の海水温が上昇する、強い「エルニーニョ現象」を観測した。その影響で、南太平洋のキリバスや豪州のグレートバリアリーフでは、サンゴ礁に過去最大の被害がもたらされたという。周辺海域では海水温の上昇がかつてないほどの長期間にわたり、大規模なサンゴ白化現象が広がったとされている。

     世界的な危機感を背景に、サンゴに関する研究は海外でも活発化してきた。米テキサス大学の研究チームは、サンゴが高温に耐える遺伝子を持っていることを示唆する論文を発表している。海水温の上昇にも適応して、白化しにくいサンゴを作り出せる可能性も出てきた。今後は、日本をはじめ各国の研究機関がさまざまな形で取り組んでいる研究の情報交換やデータの共有が、これまで以上に求められることになるだろう。

     私たちは多様な生き物とこの地球で共生している。しかし、温暖化や人間の活動など、取り巻く環境の変化で、サンゴのように絶滅の恐れが出ている生き物も少なくない。トランプ米大統領が、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言するなど不透明な国際情勢の中で、世界各国には温暖化防止に向けた一層の取り組みが求められる。科学者たちも「地球が生き物たちの楽園であってほしい」との願いから研究に注力している。それはあたかも、私たちに課せられた宿題に答える作業のように思える。

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    プロフィル
    佐藤 良明( さとう・よしあき
     読売新聞調査研究本部主任研究員。専門分野は生命科学、医療。科学部次長を経て現職。iPS細胞、ヒトゲノムなど最先端の生命科学や、脳死移植、新型インフルエンザといった医療の分野を中心に取材してきた。「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」と「読売テクノ・フォーラム」を担当している。

    2017年07月27日 11時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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