炎上と延焼を繰り返すネットCMの舞台裏
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広告業界に起こった転機

もともとCMは、テレビ放送用に制作されていました。テレビは、「公共の電波で放送できる内容」にするため、「視聴者に不快感を与えないか」「子どもが見ても問題がないか」「女性蔑視にならないか」「暴力的な表現はないか」といった内容が厳しく精査されます。
広告代理店も、こうした“常識の基準を超えないライン”を守りつつ、その中で注目を浴びる演出や工夫を考えていたのです。
しかし、ネットCMには、テレビのような制約がありません。多くが広告主の良識やポリシーに委ねられます。それだけに無茶できないはずなのですが、なぜ、炎上するようになったのでしょうか?
そこで、今に至るプロセスの一端を紹介しましょう。
転機は2015年10月に訪れました。民放テレビキー局5社が、放送後の番組を無料で視聴できるサイト「TVer(ティーバー)」をネット上に開設した時のことです。広告業界に変化が表れました。
求む!新しいCM手法
当時、ある大手食品メーカーの会議室で、広告代理店を集めた新しい宣伝アイデアを募る企画コンペの説明会が開かれました。私は審査員として出席していました。そこで、こんなやりとりがありました。
食品メーカー宣伝部「民放キー局5社が番組をネット配信する総合サイトTVerを立ち上げることになりました。我が社はドラマなどのテレビCMを宣伝の大きな柱と考えてきました。しかし、そのドラマが放送後すぐネットで見ることができるとなれば、CMを見てもらえなくなる懸念があります。ただでさえ、録画視聴が増えて、リアルタイム視聴が減っています。この事態を克服する新しいアイデアを、皆さんから募りたいと思います」
広告代理店A社「それは、テレビよりもネットでの宣伝を重視するということでしょうか?」
宣伝部「いえいえ、テレビCMも重要と考えています。ドラマのスポンサーを降りるつもりはありません。ただ“それだけで十分”という時代ではないと思うのです。もちろん、インターネットも欠かせないとは思っています」
広告代理店B社「御社はすでにネット広告も十分に行っておられます。それは、これからも続けられるのでしょうか? それともネット広告そのものを変えるとお考えですか?」
宣伝部「もちろん、これまで行ってきたネット広告をやめる予定もありません。ただ、新しいアイデアが必要ではないかと考えています。みなさんの斬新な提案をお待ちしています」
8秒で注目を集める
スポンサー企業は通常、こうした企画コンペの説明会では、商品のコンセプトやターゲットなどを明確に示すものです。しかし、これまでに経験したことのない事態が訪れるとあって、企業側はぼんやりとした打開策を求めていました。
これに対し、広告代理店はまず、市場調査を行うのが一般的です。ただ、仕事が獲得できる保証のないコンペの場合、プレゼンテーションにそれほどの投資はできません。そこで指標になる既存データを探します。
ピッタリのデータが存在しました。15年5月、米マイクロソフト社が「現代人の集中力は8秒しかもたない」という衝撃的なリポートを発表しました。金魚は集中力を維持できるのが9秒と言われ、現代人はそれにも劣るというのですから驚きです。
多くの広告代理店がこのデータに注目し、実際のプレゼンテーションでは「8秒で注目を集める動画」の提案が相次ぎました。
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