旅館の夕食をなくすと寂れた温泉街がにぎわう?

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泊食分離で求められる「まちづくり」

湯田中温泉にある加命の湯(WAKUWAKUやまのうち提供)
湯田中温泉にある加命の湯(WAKUWAKUやまのうち提供)

 泊食分離が求められているのは、例えば、湯治(とうじ)()の系譜を引き、戦前まで(なが)(とう)(りゅう)の湯治客を相手にしていた自炊宿が並ぶような地域だ。

 ここには、生活の場として八百屋や魚屋などの店舗や飲食店も共存していたが、高度経済成長期以後、賃金の上昇と観光の大衆化によって、客層は都市部からの団体客に移り変わった。宴会需要が増え、旅館は大型化し、徐々に小さな店舗が消えていった。そんな地方の温泉地である。

 こうした温泉地には、過大投資のツケで経営不振に陥ったまま、業績改善を見込めずに身動きがとれないという旅館も少なくない。中には廃業したのに、そのままになっている建物もある。

 地域の再生には、投資が求められるとともに、「新しい客層の開拓」が不可欠だ。そのため、長期間の宿泊と街を回遊できる仕組みづくりを新たに導入することが有効だと考えられている。その手段の一つが、泊食分離というスタイルなのである。

泊食分離で街に変化

発酵料理をテーマにしたビアバー・レストラン「HAKKO」(WAKUWAKUやまのうち提供提供)
発酵料理をテーマにしたビアバー・レストラン「HAKKO」(WAKUWAKUやまのうち提供提供)

 一例として、()()(なか)温泉(長野県山ノ内町)を紹介しよう。温泉につかるサル「スノーモンキー」で知られる温泉街だ。

 地元の八十二銀行をはじめとする長野県内の金融機関、政府系ファンド「地域経済活性化支援機構(REVIC)」が共同で、観光産業の発展に向けた取り組みの支援を行う「ALL信州観光活性化ファンド」を設立。2015年8月から、本格的に温泉街の再生を図っている。

 再生策のひとつが「泊食分離」の導入だ。

 まちの再生を担う観光まちづくり会社「WAKUWAKUやまのうち」は、かつて商店や旅館だった建物を、オーナーから賃借あるいは買い取って改装。地域の若者や事業者に賃貸し、素泊まり型ホステルや夜遅くまで飲食できるビアバー・レストランとして活用している。営業を断念した旅館は、調理場などオーナーの居住用部分を除き、客室部分を改装して新たな旅館「加命の湯」として再生させた。

 ホステルや加命の湯では夕食を提供しないため、夕方になると宿泊客は街中へ出かけていく。泊食分離が定着してきたため、街がにぎわいを取り戻しつつある。

 泊食分離を進め、旅館から夕食の調理・配膳・後片付けがなくなったことで、旅館で働く従業員の夜勤がなくなった。旅館の勤務形態も変わり、人材不足の解消や若者の創業支援にもつながっていく。

地方観光が変わる号砲

 湯田中温泉と似たような地域は全国に数多くある。

 そうした地域の再生は、旅館単体でできるものではなく、金融機関や地方自治体の協力が不可欠となる。そのために政府が泊食分離の導入を促進し、資金面を含めて後押しをすることに意義があるだろう。ただ、この泊食分離が成功するか否かは、現在進められている「働き方改革」とも大きくか関わってくる。

 もちろん、足元では、外国人旅行者のニーズに応える対策も必要だ。しかし、急激な伸びを見せる中国や東南アジアからの訪日客の増加が、今後もずっと続くとは限らない。

 むしろ、新たな内需拡大を考えなければならない。労働生産性を追求する時代に入り、観光地は今までのように、休日を過ごす観光客を相手にするだけではなく、「働く日常」と「余暇」が融合した新需要をいかに創造していくかが課題となる。

 自然豊かな観光地に滞在し、シェアオフィスでテレワークを行う。深い森の中で川のせせらぎを聞きながら、創作活動に没頭する。そして、ゆったりと温泉につかる。洒落(しゃれ)たレストランでワイングラスを傾けることもあれば、仲間で集まってバーベキューもいい。仕事に集中したければ、買ってきた弁当で済ませることもあるだろう。こんな働き方改革が実現すれば、泊食分離のスタイルは打ってつけだ。

 泊食分離は、地方観光地が変わっていく予兆を告げる号砲と言えるのではないだろうか。

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プロフィル
井門 隆夫( いかど・たかお
 高崎経済大学地域政策学部准教授。1961年、東京都生まれ。85年、日本交通公社(現・JTB)入社。全国宿泊商品の企画やマーケティングを担当。2000年、ツーリズム・マーケティング研究所主任研究員。11年に 井門観光研究所 を設立し、観光業の商品企画や販路開拓を支援・指導している。

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