より深い理解と感動へ、英語で読むカズオ・イシグロ

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 今年のノーベル文学賞に選ばれたカズオ・イシグロ氏は、日本生まれの英国人作家であり、当然、作品はすべて英語で書かれている。イシグロ作品は日本語でも楽しめるが、原文で読めば、また違った世界が見えてくるに違いない。英語で読むイシグロ作品の楽しみ方を神田外語大非常勤講師の日吉信貴さんに解説してもらった。

翻訳を意識、平明な英文

今年のノーベル文学賞に決まったカズオ・イシグロ氏(2011年撮影)
今年のノーベル文学賞に決まったカズオ・イシグロ氏(2011年撮影)

 カズオ・イシグロ氏は大変に幸運な作家である。長編第一作の『遠い山なみの光』(1982年、原題:A Pale View of Hills)からしてすでに、英語以外の10か国語以上の言語に翻訳されている。それだけではない。『日の名残り』(89年、同:The Remains of the Day)により、35歳という当時としては異例の若さで、英国最大の文学賞であるブッカー賞も受賞した。

 デビュー時から国際的な作家であったがゆえに、イシグロ氏は自作を翻訳でしか読まない読者も意識して、執筆時から外国語に訳しにくい英文を極力排している。

 また、イシグロ作品において舞台となっているのは、中世イギリス、冷戦終結後の中欧、30年代の上海、終戦直後の日本など多岐に及ぶが、作品の主眼は舞台ではなく、その下に流れる普遍的な問題に置かれているので、土着性もまた、小説からは排除されている。

 そのため、英国人作家の手によるものであるからといって、イシグロ作品は、かの国の事情に通じていなければ理解できないものではない。まして、英語の原典で読まなければ良さが分からないといったことは決してない。

 少なくとも日本では、訳者に恵まれたこともあり、イシグロ作品は、日本を舞台とした『遠い山なみの光』と『浮世の画家』(86年、同:An Artist of the Floating World)の2作品を除いて、翻訳で十分に楽しむことができる。

 しかし、翻訳に限界があることも、また否定し難い事実である。翻訳されることを意識しながら書かれたイシグロ作品でさえ、日本語に訳されることによって、原書の持っていた微妙なニュアンスが見えにくくなることと無縁ではない。それは翻訳者の責任ではなく、英語と日本語が全く異なった言語であるという当然の事実に由来する。

 ノーベル賞決定を受けて、イシグロ氏の作品に興味を抱いた人も多いであろう。日本語訳と英語の原典のどちらで読もうか、悩んだ方も決して少なくないのではないかと思う。

 よく知られている通り、イシグロ氏の作品は平明な英文で書かれている。高校の授業や受験勉強を通じて英文解釈の基礎を身に付けてさえいれば、原書で読み進めることも十分可能だ。本稿では、日本語訳の中に生じている原書とのズレをいくつか紹介することで、英語の原典に対するみなさんの興味を喚起していきたいと思う。

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