藤井四段も活用…将棋ソフトが変える現代将棋
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急速に進歩した将棋ソフト

将棋ソフトは人工知能の一種で、対戦相手を務めてくれたり、気になる局面や棋譜を調べてくれたりする。気になる局面を入力すると、将棋ソフトが形勢を判断し、次にどんな手が有力かを教えてくれる。棋譜を入力すると、形勢がどう揺れ動き、どこで悪手を指したのかをすぐに示してくれる。それを参考にするのだ。
実力はかつてアマチュアレベルだったが、近年、急速に強くなった。プロ棋士と将棋ソフトが対戦する電王戦は2012年に始まったが、プロ棋士が負け越した。最後となった今年の電王戦では、佐藤天彦名人がPonanzaに2連敗している。
多くの将棋ソフトが市販されているほか、インターネット上で無料公開されているソフトもあり、誰でもダウンロードして使うことができる。ソフトの強さが広く知れ渡るにつれて、研究に活用する棋士も増えてきた。人間VSコンピューターの時代は終わり、研究のパートナーとして共存する時代に入ったと言えるかもしれない。
「将棋ソフトを積極的に使う」と公言しているのは、23歳の千田翔太六段である。千田六段は今年3月、新手を指したり定跡の進歩に貢献したりした人に贈られる升田幸三賞を受賞した。受賞理由となったのが「対矢倉左美濃急戦」と「角換わり腰掛け銀4二玉・6二金・8一飛型(図2)」という指し方である。
いずれも将棋ソフトの指し回しからヒントを得たもので、千田六段は自身のツイッターで「個人としては、色々な非公式なところで、Ponanzaまたはコンピューター将棋を推していました」とつぶやいている。ただ、将棋ソフトの指し方を研究で掘り下げ、実戦で使えるようにしたのは、間違いなく千田六段の力である。
千田六段は15年度の第65回NHK杯将棋トーナメントで準優勝、16年度の第42期棋王戦五番勝負では渡辺明棋王をフルセットまで追い込むなど、研究を実績につなげた。コンピューター将棋生まれの作戦が持つ可能性を天下に示したのである。
活用の仕方、濃淡は人それぞれ

棋士の将棋ソフト活用法は様々だ。課題の局面を将棋ソフトに検討させたり、自分の指した将棋を解析させたり。ある棋士の研究会では、将棋ソフトをメンバーとして組み入れ、練習将棋を指している。それと同様、将棋ソフトとの付き合いの濃淡も人によって違う。
公式戦の連勝記録で歴代単独1位となる29連勝を達成した中学校3年生の藤井聡太四段。藤井聡四段は、奨励会三段のころから将棋ソフトを活用している。インターネットテレビAbemaTVが企画した「藤井聡太四段炎の七番勝負」の第7局で、藤井聡四段が羽生三冠(現棋聖)に勝ったことは大きな話題になった。その対局で、藤井聡四段が戦端を開いた一手は、将棋ソフトがよく指す手だった。

対照的に、羽生世代の強豪、48歳の佐藤康光九段はあまりソフトを使っていないことで知られる。升田幸三賞を過去2回受賞していることからもわかるように、佐藤康九段は独創的な作戦で戦うタイプだ。アスファルトの上を走る定跡形ではなく、未開のでこぼこ道を行く力戦形に軸足を置いている。並の棋士がまねをしたら空中分解しそうな陣形でも、持ち前の豪腕でまとめてしまうことが多い。
16年度の第66回NHK杯将棋トーナメントで優勝し、第30期竜王戦では最高クラスである1組に復帰するなど、今も第一線で活躍している。

将棋ソフトの活用は年齢とはあまり関係がないようだ。52歳のベテラン、塚田泰明九段は、ソフトから得たアイデアをもとに、相矢倉や角換わりの将棋で斬新な指し回しを見せている。
逆に、将棋ソフトを研究に用いずに高勝率をあげている若手棋士は何人もいる。ある実力派の中堅棋士は、「一時期使ってみたが、評価値(形勢の優劣を数字で表したもの。プラスなら自分が有利、マイナスなら不利)を気にしすぎて自由に指せなくなったからやめた」と話していた。
将棋棋士はトレーニングコーチがいないため、自分自身で最適の研究方法や練習を編み出していく。ソフトの実力を認めたとしても、長年、積み重ねてきたものがあるだけに、自分の肌に合うかどうかは別問題なのだ。
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