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    国際

    米有力紙を資産家がまた買収…その背景とは?

    読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀
     米西海岸を代表する有力紙ロサンゼルス・タイムズが2月、中国系の資産家に買収された。インターネット通販大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が5年前にポケットマネーでワシントン・ポスト紙を取得したのに続く、個人による有力紙の買収だ。販売収入、広告収入の減少傾向に歯止めがかからない中、米メディア業界の再編が進んでいる。

    LAタイムズの新社主は中国系の億万長者

    • 中国系の「米国で最も裕福な医者」に売却されたロサンゼルス・タイムズ(AP)
      中国系の「米国で最も裕福な医者」に売却されたロサンゼルス・タイムズ(AP)

     米新聞大手トロンクは2月7日、傘下のロサンゼルス・タイムズ(LAタイムズ)紙やサンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙を約5億ドル(約540億円)で売却すると発表した。購入者は地元ロサンゼルス在住で、「米国で最も裕福な医者」(米経済誌フォーブス)と言われるパトリック・スン・シオン氏だった。

     LAタイムズが新オーナーについて伝えた記事によると、スン・シオン氏は中国系で1952年、南アフリカ生まれ。両親が第2次世界大戦中、中国から南アに逃れたという。70年代、南アでは珍しかった、駆け出しの中国系医師は人種差別を受けるなど苦労も多かったようだ。カナダを経て80年代に米カリフォルニア州に移民し、当初は大学病院で糖尿病やがんの治療を研究。91年に医療関連会社を起業し、がんの治療薬を開発するなどし、今や推定資産78億ドルという大成功を一代で収めた。

     スン・シオン氏がメディア業界に関心を示したのは、2016年のことだ。トロンク(当時の社名はトリビューン・パブリッシング)の筆頭株主マイケル・フェロ氏が、ライバルで新聞業界最大手ガネットの敵対的買収をかわすため出資者を探していたところ、スン・シオン氏が、ガネットに対抗し、友好的に出資するホワイトナイトとして名乗りを上げ、トロンク第2の株主となった。当時、スン・シオン氏はメディア業界に参入した動機を「新聞というものは、知的な良心を守るために不可欠だ」と話していた。

     ところが、まもなくフェロ、スン・シオン両氏の間で経営の主導権を巡る対立が表面化。同紙の編集幹部を巻き込んだ混乱がしばし続いた後、突然、今回の決着となった。

     メディア評論家ケン・ドクター氏はハーバード大のジャーナリズム研究所ニーマン・ラボへの寄稿で、フェロ氏がスン・シオン氏への売却をにわかに決断した理由について、(1)トロンク株が今年1月下旬、これまでの最高値である約21ドルをつけた上、トランプ米政権が打ち出した大型減税をにらみ、今が売り時だと判断した(2)同紙の編集現場との対立に嫌気がさした――などが考えられると指摘する。

    • ロサンゼルス・タイムズの新しい社主となったパトリック・スン・シオン氏(AP)
      ロサンゼルス・タイムズの新しい社主となったパトリック・スン・シオン氏(AP)

     では、スン・シオン氏の狙いはどこにあり、LAタイムズはどう変わるのだろうか。買収にあたり、スン・シオン氏は「同紙の伝統ある立派なジャーナリズムを継承する」との声明を発表したが、編集方針にどこまで関与するつもりなのかはまったく読めない。

     現在、米国の地方紙としては最大規模のLAタイムズは1884年に創刊された。創業者の縁戚チャンドラー家が長らく経営してきたが、2000年にトリビューン・カンパニー(トリビューン・パブリッシングの前身)に買収された。トロンク時代、同紙の編集幹部が激しく入れ替わっており、誰が現場の(かじ)取りをするのかも不透明だ。ドクター氏は「スン・シオン氏の新聞全般に対する知識は限られる。デジタル対応にしてもそうだ」と当面、混乱が続くことも予想する。

    2018年03月03日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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