文字サイズ
    国際

    4期目目前のプーチン氏、内と外で直面する難題

    公益財団法人「未来工学研究所」特別研究員 小泉悠
     「ロシアは見かけほど強くはないが、見かけほど弱くもない」。19世紀のドイツ帝国の宰相ビスマルクの言葉だが、この言葉は21世紀となった今も示唆に富む。3月18日のロシア大統領選で当選が確実視されるプーチン大統領。今月初めに行った教書演説では、ロシアの新型ミサイルの威力を強調し、米国への対抗姿勢をあらわにした。米露の対立はこのままエスカレートしていくのだろうか。ここはロシア軍の現状の力、そして、プーチン氏が世界がどう見ているのかを冷静に分析してみたい。ロシアの軍事・安全保障を専門とする公益財団法人「未来工学研究所」特別研究員の小泉悠さんに聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

    語られなかった部分に真実

    • 1日、モスクワで教書演説を行うプーチン大統領(ロイター)
      1日、モスクワで教書演説を行うプーチン大統領(ロイター)

     ――プーチン大統領は今月1日、内政・外交の施政方針を示す年次教書演説を行った。小泉さんがこの演説で注目した点は何か。

     「今回、プーチン大統領の演説は2時間にも及んだが、前半の経済の話は本当に退屈で、聴衆の中にはあくびをする人さえいた。面白かったのは後半で、核抑止力の話を始めると雰囲気もがらりと変わった。

     米国は2002年にミサイル防衛を厳しく制限する弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から脱退した。これに対しプーチン氏は、ロシアは抑止力を維持しなければならないと述べ、いろいろな新型核兵器を映像付きで紹介した。これは、今年2月に米国が発表した核戦力体制見直し(NPR)に対する反発という部分が強いのではないかと思う。

     選挙を前に国民に何かアピールしなければならないが、経済はぱっとしない。国民の目に見えるバラマキをしようと思っても、財源がない。プーチン氏最大の選挙戦略は愛国心に訴えることだ。投票日を3月11日から18日に繰り下げたのも、14年にクリミアを併合した『記念日』に合わせたかったからだ。プーチン氏は今回、実現できそうなものから、そうでないものまで様々な新型兵器を紹介した。米国のミサイル防衛を突破できることを強調すると、聴衆は2回にわたって立ち上がり、拍手を送った。

     ところが、重要なことはむしろ、演説で語られなかった部分にある。プーチン氏は核兵器の分野では米国のミサイル防衛を突破してみせると言ったが、軍事力全体、通常兵器や人工知能(AI)を活用した将来型の兵器などで米国と張り合うとは言わなかった。

     演説だけを聞くと、ロシアが軍事大国を目指しているようにも見えるが、国防費は16年にピークを迎えた後、抑制傾向にある。プーチン氏は、軍拡に向かったらロシアの経済力では支え切れないと考えている。お金もなく、決して強くないロシアが抑止力を保つには核に頼るしかない。一点豪華主義のようなものを感じた」

     ――核以外の分野では、ロシアは米国に太刀打ちできないのか。

     「米国は第3オフセット(相殺)戦略というものを進めている。中国やロシアの通常戦力が向上してきたので、米国はイノベーション型の軍事力で対抗するという戦略だ。中露がまねできないAIや情報技術(IT)といった部分の優位を全面的に出していく。それがどういう形になるか、まだ見えていないが、オバマ政権時代に国防総省でこの戦略を主導したワーク副国防長官がトランプ政権でも留任しているので、継続と見ていいだろう。

     米国が本当に第3オフセットを実現してきた時、ロシアが太刀打ちできる見込みは非常に薄い。単純に数だけを考えても、ロシア軍は100万人しかいない。しかも、これは定数なので実数は90万人ぐらいだろう。ロシアが正面戦争をしても、米軍(131万人)、NATO軍(欧州側の加盟国だけで186万人)に勝てる見込みはほとんどない。中国相手でも厳しいと思う」

    2018年03月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP