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    国際

    4期目目前のプーチン氏、内と外で直面する難題

    公益財団法人「未来工学研究所」特別研究員 小泉悠

    新しいものではないハイブリッド戦争

    • 3月6日、ロシア中部スベルトロフスク州ニジニ・タギルにある軍需工場を訪れたプーチン大統領(中央)=AP
      3月6日、ロシア中部スベルトロフスク州ニジニ・タギルにある軍需工場を訪れたプーチン大統領(中央)=AP

     ――2014年のウクライナ紛争の際、ロシアが用いた手法は、覆面をして国籍表示を外したロシア軍兵士を送り込み、現地の親露派住民や民兵を動員するというものだった。西側はこれを「ハイブリッド戦争」と呼んだ。この手法はどうやって生まれたのか。

     「ハイブリッド戦争はロシアにとって新しいものではない。ナゴルノ・カラバフ戦争(1988~94年)や沿ドニエストル紛争(92年)など、ロシアが近年関与したものはみんなハイブリッド戦争だ。常に現地の武装勢力や民兵、犯罪集団を巻き込み、場合によってはロシア軍が公然とではなく、非公然の介入をしてきた。その源流はさらに古く、30年代のスペイン内戦への介入とか、それ以前の歴史を挙げる専門家もいる。

     もともとハイブリッド戦争という概念は米国で生まれた。2003年に始まったイラク戦争で、米軍は少ない兵力でフセイン軍を破ったものの、対テロ戦争はうまくいかなかった。国家の軍隊を倒すだけではだめだという反省の中から、正規軍以外の脅威にも目を向けるようになり、陸軍の野外教範にも『ハイブリッド脅威』という項目が設けられた。ウクライナ危機でロシアが用いた手法を見て、米国メディアは『これはハイブリッド戦争だ』と思ったが、ロシアの参謀本部にしてみれば、何一つ新しいことをしたとは思っていない。

     ロシアはシリアでも『シリア版ハイブリッド戦争』をやっている。民間軍事会社の力を借りたり、ロシア人が率いてその下が全員シリア人義勇兵という部隊を作ったりしている。大軍を送り込むようなやり方はロシアにはできない。国力の限界の中で、その場所にカスタマイズしたやり方を考えている。

     一方、シリアに展開しているロシアの正規軍は、わずか三十数機の戦闘機を中心とする小規模な空軍にすぎない。それで何ができるのかと思うが、できてしまうのは、彼らが無差別爆撃をしているからだ。西側では政治的にできないようなことがロシアならできる。このへんの政治的なギャップを巧妙に突くことで物理的な限界をキャンセル(無効化)するという手法だ」

    ロシア独特の考え方、世界観

    • 3月3日、モスクワ市内のスタジアムで開かれたプーチン大統領支持派の集会でロシア国旗を振る人たち(ロイター)
      3月3日、モスクワ市内のスタジアムで開かれたプーチン大統領支持派の集会でロシア国旗を振る人たち(ロイター)

     ――ロシアは自国が介入できる範囲をどこまでと考えているのか。

     「無限にどこまでも介入する気はない。米国のように世界秩序のリーダーという自覚もない。地球の裏側のことはどうでもいいわけだ。

     この一方で、ロシアの勢力圏思想というものを追っていくと、彼らは旧ソ連国境、あるいはかつてロシア帝国が支配していた地域を非常に特別なものととらえていることがわかる。その内か外かで論理が全く変わる。旧ソ連の域外に関してロシアは、優等生過ぎるぐらい古典的な国家間秩序を重視しており、国家は相互に不干渉で国境線は尊重すべきだという。ユーゴスラビアやイラクへの介入に反対したのは、このような論理によるものだ。

     ところが、旧ソ連国境の内側にある国々については、これが逆転する。旧ソ連諸国には完全な国家主権がないとみなし、しかもそれらの国々に暮らす人々はロシアの保護下にあると主張する。そこにロシア人やロシア語を話す人がいる以上、彼らが危機にさらされていたら、ロシアには介入を行う『責任』があるという。

     内と外の使い分けでロシア人がどう折り合いをつけているかというと、昔からロシアが支配していたのだから『歴史的空間』だというのだ。

     ただ、旧ソ連の中でもウクライナやグルジア(現ジョージア)のように、ロシアと断交状態の国もある。その場合でも、NATOなど外部の勢力が入ってくることは絶対許さない。ロシアにとって許しがたい行動をさせないという意味では、ロシアはまだぎりぎりグリップ(影響力)を利かせている。

     ロシアはカザフスタン、アルメニアなどと軍事、経済同盟を結成しているが、それらの国々と、言うことは聞かないかもしれないが他の陣営には行かせないという国々。ここまでが多分、ロシアの勢力圏だ。

     その外に、遠い昔はロシア帝国が支配していた、あるいは直接支配していなかったが影響下にあったという国々がある。フィンランドや東欧の国々がそれに当たり、ここにもロシアの影響力が薄く及んでいる。例えば、フィンランドがNATOに加盟できないのは、やはりロシアが怖いからだ」

    2018年03月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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