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    国際

    北朝鮮「非核化」の限りなく高いハードル

    龍谷大学教授 李相哲
     トランプ米大統領が、北朝鮮の 金正恩 ( キムジョンウン ) 朝鮮労働党委員長の要請を受け、5月までに米朝首脳会談に応じる意向を示した。北朝鮮の核・ミサイル問題の大きな転換点になる可能性があるが、問題は米国などが求めるような「非核化」を北朝鮮が受け入れるかどうかである。朝鮮半島情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授に、北朝鮮が今何を考えているのかを聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

    北の沈黙、三つの理由

    • トランプ米大統領とホワイトハウスで面会した後、記者発表を行う韓国の鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長(中央)。トランプ大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と5月までに会談することが発表された=AP
      トランプ米大統領とホワイトハウスで面会した後、記者発表を行う韓国の鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長(中央)。トランプ大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と5月までに会談することが発表された=AP

     ――北朝鮮のメディアは3月16日の時点で、米朝会談を報じていない。この沈黙の意味をどう考えるか。

     「可能性は三つある。まず、準備不足。トランプ大統領が首脳会談に即、応じるとは予想していなかった。金正恩氏がトランプ大統領に会うとなると、「非核化」を本当に真剣に検討せざるをえない。どこまで譲歩するか、プロセスをどうするか、などの点をまだ詰めていないのではないか。

     つまり、正恩氏が韓国特使に話した『非核化』は、正式な立場表明ではなく、『軍事的脅威が取り除かれ、体制の安全が保障されたら核を持つ必要はない』という従来からの原則論だった可能性がある。これ以上、踏み込んだ話がなかったとすれば、正恩氏は北朝鮮の従来の立場を、言い方を変えて、口にしただけに過ぎない。トランプ大統領に会いたいと言ったのは、米国の出方を試す意味が大きかったのかもしれない。本気なら丁重に『親書』に託すべきではなかったか。

     次に、国内の動揺を恐れている点が指摘できる。今まで北朝鮮は『米国の圧殺政策に対抗して』核を開発、保有したと宣言した。ところが、突然『非核化』のための話し合いに臨むと宣言すると、国内に動揺が広がる可能性がある。

     特に恐れているのが、軍内部の動揺だ。平壌防御司令部傘下の部隊、護衛司令部傘下の正恩氏の親衛隊、戦略軍(ロケット部隊)など、『革命司令部』を守る部隊以外の軍部隊に対する食糧の配給は、滞って久しい。最近、脱北した元北朝鮮兵士の証言では、軍部隊では10人に7人は脱北したいと言っているそうだ。軍人の多くが飢えにあえいでおり、栄養失調にかかっている。それでも、核を持つためなら犠牲もやむをえないと、我慢を強いられてきた。それなのに、突然、前触れもなく『非核化』のために米国と対話するとなると、正恩氏に対する不信感が広がる可能性がある。事前にガス抜きが必要ではないか。

     最後に、政府内のコンセンサスが必要だ。いくら独裁体制でも、『非核化』のように国家の方向性を変える大事な話については、政治局常務委員会あるいは政治局拡大会議(常務委員、政治局員、政治局候補委員が参加)で決定を下す必要があり、正式の手続きを踏むはずだ。ところが、いまだにそのような会議が開かれたという情報はない。今、対応に苦慮している証拠だ」

    2018年03月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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