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    国際

    北朝鮮「非核化」の限りなく高いハードル

    龍谷大学教授 李相哲

    「非核化」、双方で食い違う解釈

    • 韓国の文在寅大統領の特使と会談する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(中央)。写真は3月6日、朝鮮中央通信経由で配信された(ロイター)
      韓国の文在寅大統領の特使と会談する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(中央)。写真は3月6日、朝鮮中央通信経由で配信された(ロイター)

     ――韓国の特使はトランプ大統領に「北朝鮮は非核化の意思がある」ことを伝えた。北朝鮮には本当に非核化の意思があるのだろうか。

     「まず、金正恩氏の言っている『非核化』と、韓国や米国が言っている『非核化』の意味は違う。韓国や米国は北朝鮮の『完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄』を求めている。ところが、正恩氏が言っているのは『朝鮮半島の非核化』だ。

     米国が韓国に提供している『核の傘』を撤廃すること、原子力潜水艦や原子力空母、核兵器搭載可能な爆撃機などの朝鮮半島への接近をやめること、といった韓国の『非核化』を要求するはずだ。かつては、韓国内にある米軍基地の査察を主張したことすらある。

     米国が北朝鮮に核廃棄に向けた具体的な行動を示すことを要求し、核施設の査察を求めた場合、逆に北朝鮮が先に述べたような韓国についての要求を突きつけてくる可能性もある。

     そもそも、北朝鮮が核を捨てると、それこそ何にもない国になってしまう。核なしでは、軍隊は全く戦えない。丸裸になってしまう。しかも、核を捨てたところで、国際的な圧力が完全になくなるとは思っていない。北朝鮮には人権問題もあるからだ。だから、核問題では徹底抗戦してくるのではないか。

     また、北朝鮮はすでに核保有を宣言していることを忘れてはならない。正恩氏の言う『非核化』は、朝鮮半島全体の軍縮という意味であって一方的な核放棄ではない」

    苦しい北朝鮮の経済事情

     ――予定通り米朝首脳会談が開かれたとすれば、北朝鮮は非核化の見返りに何を求めてくると思うか。

     「金正恩氏が本気で『非核化』を考えているとすれば、理由はただ一つ。今のような制裁の下では、政権は長く持たないことに気付いたからだろう。

     他に理由があるとすれば、妹の金与正(キムヨジョン)氏(朝鮮労働党中央委員会第1副部長)が『兄を説得した』可能性も考えられる。平昌(ピョンチャン)五輪の時に韓国を見て回り、政府高官と話をした後で、与正氏は北朝鮮も変わる必要があると感じたとしても不思議ではない。それを率直に進言したとも考えられる。

     正恩氏が仮に『非核化』に向けて行動する決心をしたとすれば、見返りは当然、制裁解除、経済支援だ。今、北朝鮮の国内事情はとても良くないという。北朝鮮の人民生活を支えている『チャンマダン』(自由市場)における米の値段(北朝鮮における物価のバロメーター)は、数か月前に比べて2倍に跳ね上がったという。制裁が続けば今後、経済事情はさらに悪化することが予想される。

     正恩氏はそうなる前に先手を打つ必要があった。そのためには、話し合いの雰囲気を作り、まずは、韓国が独自制裁を解除し、『人道目的』の支援や経済交流ができるようにする。そのような環境作りが当面の目標ではないか。

     正恩氏は、国内状況や彼が置かれている立場から考えて、今すぐ核を放棄するわけにはいかない。一方で、このまま突っ走るわけにもいかない。これに限界があることははっきりしている。非核化の意思があることを表明しつつ、時間をかけて国際社会から最大限の譲歩を引き出し、体制が安全だと確認されれば、その段階で初めて非核化もありうると考えているのではないか。トランプ大統領や国際社会が考えているように、すぐに核放棄に踏み切るのは難しい」

    2018年03月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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