完了しました
太平洋で卵を探すウナギ博士

絶滅危惧種に指定されているニホンウナギは、その生態が神秘のベールに包まれている。長い間わからないままだったウナギの生まれ故郷が、太平洋のグアム島西方海域であると突き止めたのは、日本大学生物資源科学部教授の塚本勝巳さん(69)だ。
「絶滅の危機に直面しているウナギを水産資源として利用できる水準まで増やしていくためには、謎に包まれたウナギの生態を明らかにした上で、保護の網をかけていく必要がある」。かつて塚本さんは、長くウナギの研究を続ける信念をそんな言葉で筆者に語ってくれた。
広大な太平洋で、直径1~2ミリしかないニホンウナギの卵を見つけ出す。しかも卵は1日半で

ウナギの産卵場所を特定するプロジェクトは1973年、研究船による航海調査が始まって本格化した。当時、調査を呼びかけた東京大学に勤務していた塚本さんは航海調査の初期から参加し、91年にマリアナ諸島西方で小さな稚魚「レプトセファルス」を見つけた。「ゴールは近い」と塚本さんはにらんだが、さらに若い孵化直後の「プレレプトセファルス」を見つけるのに、そこから14年もかかった。
さらに研究は続く。次の課題は「どうすれば産卵の時期と場所が特定できるのか?」だ。塚本さんは、海底地形、海水の塩分濃度、産卵期を推定しうる稚魚の「耳石」の痕跡など、あらゆる要素を検討した。そして2009年、ついにニホンウナギの産卵場所を太平洋マリナア海溝付近だと突き止めた。30年を超す苦難の道のりの末にたどり着いた世界初の発見だった。
孵化直後のプレレプトセファルスと呼ばれるニホンウナギの赤ちゃんは、太平洋で3000キロの旅をして、日本など東アジア諸国に到達。河川や河口域で成長期を過ごす。生育に応じて「シラスウナギ」「クロコ」「黄ウナギ」「銀ウナギ」と呼ばれる各段階を踏み、その後、産卵のため海に戻って一生を終える。塚本さんが産卵場所を特定したことにより、観察のチャンスも増え、ウナギ幼魚のえさがプランクトンの死骸であることもわかった。
生態の解明と合わせて塚本さんが力を注ぐのは、資源としてのウナギ保護と市民への啓発活動だ。1998年には、日本を中心とする東アジア諸国の海洋生物研究者らとともに「東アジア
塚本さんはこう呼びかけている。「ウナギ料理は特別なハレの日の食事として大切に考え、安価な大量消費は慎んでほしい」。ウナギの保護を日本人として真剣に考えないと、いつしか食卓にウナギがのぼらなくなる――そうしたメッセージを塚本さんはこれからも社会に発信していく。