セブン、MONO…「色だけで商標」の魅力と高い壁

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色彩の商標登録、わずか4件だけ

 3年前に商標法の改正が行われて以降、新商標の各タイプ別の出願件数と登録件数は、下の表の通りだ。登録件数の多い順に、音の商標が218件、動き92件、位置42件、ホログラム11件、色彩4件――だった。

 日本の動きに対して、欧米はどのようなトレンドにあるのだろうか。

 特許庁の調べによると、米国で過去65年間(1947年~2012年)に登録された新商標を合計すると、色彩の商標がトップで360件、音が109件、動きが33件、ホログラム15件に上る。欧州連合(EU)加盟国で見ると、過去16年間(1996年~2012年)の新商標登録は、色彩の商標272件、音129件などとなっており、やはり色彩が最も多い。

 日本企業が、色彩の商標出願に消極的なわけでは決してない。

 日本で特許庁に出願が行われて新商標として認定される割合は、5タイプ全体で2割強。動き商標は7割と登録率が最も高く、ホログラムも出願は少ないものの6割が認められている。音も4割強に達した。一方、位置は1割にとどまり、欧米で最も多い色彩は、日本でも519件もの出願件数があったにもかかわらず、先述したように登録4件と少ない。登録達成率は1%も切っている。なぜ、色彩商標はこのような狭き門になっているのだろうか。

 色彩商標への具体的な挑戦事例から、その答えをさがしてみよう。

胸と襟のラインに4色の色彩商標を入れたセブン―イレブンのユニホーム
胸と襟のラインに4色の色彩商標を入れたセブン―イレブンのユニホーム

 色彩商標は、単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標をいう。特許庁の審査という難関を突破して、晴れて正式に登録された4件とは、セブン―イレブン・ジャパンの「白、オレンジ、緑、赤」の4色カラー(昨年3月登録)、トンボ鉛筆の消しゴムケースの「青、白、黒」3色カラー(同年3月登録)、そして三井住友フィナンシャルグループがコーポレートカラーとして三井住友銀行やSMBC信託銀行の店舗などに使用している「濃緑、薄緑」のツートンカラーだ。三井住友フィナンシャルグループは、色の比率が異なる2種類のタイプを申請し、2件の色彩商標として認められた(ともに今年2月登録)。

 老舗の中堅企業として<色彩商標3社>の一角に食い込んだトンボ鉛筆は今年4月、2018年度の知財功労賞の経済産業大臣表彰を受賞した。消しゴムの「MONOブランド」の色彩商標を戦略的に活用しているだけでなく、全世界の全商品に統一して使用するコーポレートブランド「Tombow」と、商品コンセプトに合わせた「MONOブランド」などの個別ブランドを併用する複合ブランド戦略が評価された。

 そんなトンボ鉛筆であっても、色彩商標の登録を成し遂げるまでの道のりは決して平坦(へいたん)ではなかったようだ。

 トンボ鉛筆は米国や欧州では、商品の形という全体的なパッケージの中で色彩の商標権をすでに先行取得していた。ただ、色彩のみで権利化を図るのは初めての挑戦だった。

消しゴムケースに「青、白、黒」の3色が映えるトンボ鉛筆の色彩商標
消しゴムケースに「青、白、黒」の3色が映えるトンボ鉛筆の色彩商標

 「MONO」ブランドは1963年から使い始め、約50年の使用実績があった。しかし、商標の登録審査に際して、「色彩での識別力の立証」を求める特許庁の審査を、当初はなかなかクリアできなかった。

 最大の問題は、同社が自社の文房具製品全体を対象に色彩商標を取得しようとしたことだったが、最終的に同社が、消しゴムだけに商標の対象を絞ったことで、特許庁のOKが出た。そこに至る経緯と戦略の変更過程では、特許庁との激しいやり取りがあったようだ。

 小川晃弘社長は「お客様にトンボ製品のブランドを認知して着実に手に取っていただき、喜んでいただくことが、我が社の社是です。TombowやMONOなどのブランドは大切な資産」と話す。

 色彩だけで他社製品と識別してもらう強力なブランド力を生かし、「知財活動を一層強化し、ブランドの育成に励んでいきたい」とさらなる戦略の拡大に意欲的だ。色彩商標は現在、消しゴムに限定されているが、「諦めたわけではない。消しゴムの権利化をベースに、いずれ文具全体の権利化も目指したい」と話している。

立ちはだかる特許庁の厚い壁

 セブン―イレブンの色彩商標も、権利化の実現には苦労したようだ。

 そもそもセブン―イレブンの4色カラーとは、オレンジが「朝日」、赤が「夕日」、緑が「オアシス」を意味し、「朝から夜までお客さまのオアシスでありたい」という思いが込められた配色だという。

 特許庁に出願したのは制度スタートと同時の15年4月。4色カラーは日本で1986年から使用し始め、出願時点で約30年の使用実績があった。特許庁に対しては、店舗数が約1万8000店あり、売上高は4兆円強に達していること、さらにこのカラーを使用した広告CMの実例や、消費者のアンケート調査などを出願時に資料として提出した。

 ところが、約1年後に示された特許庁の判断は「立証が足りない」――。出願が却下されたという。

 海外展開もしているセブン―イレブンは、早くから色彩商標制度が導入されていた海外では、すでに色彩の権利化を成し遂げていた。米国と韓国では1999年に、豪州では2004年、スイスでは2013年に商標権を取得済みだった。にもかかわらず、日本の特許庁の壁は厚かったというわけだ。

 そこでセブン―イレブンは、同社の色彩に関する消費者アンケートをやり直した。「あの色を見るとセブン―イレブンと識別する」と回答した消費者の割合が約9割に達する――という調査結果を16年11月に再提出したところ、ようやく17年2月になって店舗の看板や商品に使われる色彩商標として認められたという。

 セブン―イレブンが色彩商標を取得しようとしたのは、もちろんブランド戦略強化の一環だが、過去に味わった苦い経験も背景にある。

 日本でまだ新商標が制度化されていない時代、各地のゲームセンターや歓楽街の風俗店などで、セブン―イレブンの4色が好き勝手に使われ、企業イメージが損なわれるケースがあったからだ。4色が「便利」とか「簡便」といった一般的な意味を持つかのように普及してしまえば、コストをかけてイメージの確立に注力した同社にとっては、容認できない話だ。当時は色彩商標が認められていなかったため、同社は不正競争防止法を根拠にそれぞれの相手と争って色の使用を阻止したという。

 企業は商標をいったん登録できれば、それを独占的に使用することが可能になる。

 特許や著作権などの権利が一定期間後に広く開放されるのに対し、商標は更新手続きをすれば権利を継続的に使用できる。それが商標の強さであり、企業が消費者に商品やサービスをアピールする際のブランドとして、企業価値を向上させる。模倣品や類似品が出てきた場合、訴訟などで排除することもできる。まさに商標は、ブランド戦略の攻守に役立つ武器なのだ。

 一方、先行されてしまった他社はすでに登録されている商標は使えず、大きなハンデになる。だからこそ、企業名や商品、サービスのブランド戦略を展開しようと狙う企業にとって、商標権の速やかな獲得が欠かせないことが分かるだろう。

包装上部の両サイドに色彩商標を、中央にロゴをあしらったセブン―イレブンのサンドイッチ
包装上部の両サイドに色彩商標を、中央にロゴをあしらったセブン―イレブンのサンドイッチ

 セブン―イレブンは最近、全国の店舗が2万店を超えたことを契機に、色彩商標を利活用する新たな動きを加速させている。

 セブン&アイホールディングス法務部の村上美保子オフィサーは、「色だけでセブン―イレブンだと分かることをあまり意識しなかった社員もいるが、色のブランド価値を改めて社内で再確認し、商品などにさらに積極的に使用することにした」と話す。

 例えば、店員のユニホームに社名のない4色マークだけを付けたり、おにぎりやサンドイッチなどの商品の包装にも4色のマークをあしらったりして、<色の力>をアピールすることを始めた。社名がなくても、色を見ただけでセブン―イレブンと認識してもらうよう狙ったもので、「色だけを使ってどんな工夫ができるか?」と社員たちに問いかけ、アイデアを求めているという。色彩商標で先行するパイオニア企業の強みと言えよう。

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