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    国際

    「孤独」に社会で向き合う英国、その背景とは

    在英ジャーナリスト 小林恭子
     生涯未婚率の増加や高齢者の「孤独死」が報じられる一方で、書店には「孤独」を前向きにとらえた本が並ぶ日本。孤独は個人の心の問題ととらえられることが多いが、英国では内閣に孤独担当大臣のポストを新設し、政府が対策に乗り出した。ここまで踏み込んだ政策を打ち出す背景には何があるのか。在英ジャーナリストの小林恭子さんに寄稿してもらった。

    内閣に「孤独担当大臣」

    • 「孤独を終わらせるキャンペーン」のウェブサイト
      「孤独を終わらせるキャンペーン」のウェブサイト

     「孤独から抜け出すには、孤独であると感じている自分を責めないこと」

     複数の慈善団体が参加する「孤独を終わらせるキャンペーン」のウェブサイトには、孤独を感じる人に向けた対処法が掲載されている。その最初のステップとして、上記の言葉が書かれている。英国では今、政府と民間が協力しながら、個人の「孤独」に対処しようという機運が生まれている。

     話は今年1月にさかのぼる。メイ首相が内閣に「孤独担当大臣」を置くことを発表した。孤独という心の内面に関わる領域に政府が踏み込むのは前代未聞で、多くの海外メディアは驚愕(きょうがく)の念をもってこのニュースを報じた。

     英政府は、なぜ今、孤独解消を政策課題として取り上げることにしたのか。また、どのように取り組んでいるのだろうか。

    きっかけは殺害された議員の努力

     孤独担当大臣の任命は、慈善団体「ジョー・コックス孤独問題対策委員会」が昨年末に行った提言が基になっている。

     ジョー・コックスは、労働党の故ヘレン・ジョアンヌ・コックス(1974~2016年)下院議員の名前から来ている。ジョーはジョアンヌの略称だ。

     コックス議員は、16年に行われた欧州連合(EU)からの離脱を巡る国民投票では残留派だった。投開票日まで残すところ1週間となった6月16日、「英国第一」を叫ぶ極右系男性に発砲された後に刺され、運び込まれた病院で亡くなった。

     生前のコックス議員は、孤独問題の解消をライフワークとしていた。

    • 英国では「孤独担当大臣」を置き、孤独対策に乗り出した(写真はイメージです)
      英国では「孤独担当大臣」を置き、孤独対策に乗り出した(写真はイメージです)

     コックス議員は15年、イングランド地方北部ウェスト・ヨークシャ―州バトレー・スペン選挙区の議員として当選した。この選挙区には低所得者や年金生活者が多く住んでおり、孤立や孤独が大きな問題となっていた。それを知ったコックス議員は、自らの使命として孤独の解消に取り組むことを決めた。

     コックス議員は保守党のシーマ・ケネディ議員と共に「孤独問題対策委員会」を設立したが、道半ばで命を落とすことになった。コックス議員の遺志を引き継ぐ形で組織化されたのが、彼女の名前を冠した孤独問題対策委員会である。

     昨年12月、委員会は13の慈善組織と協力しながら、孤独がいかに個人の生活全体や社会のあらゆる面に影響を及ぼすかを調査し、報告書を発表した。

     それによると、孤独はすべての年齢層、社会的背景を持った人に影響を及ぼす。友達を作れない子供、初めて子を持つ親、友人や家族に先立たれた高齢者といった人たちだ。孤独状態が慢性化すると、健康に害を及ぼし、人とのコミュニケーションができなくなるところまで追い込まれる。孤独は、1日にタバコを15本吸ったのと同等の害を健康に与えるという。雇用主には年間25億ポンド(約3700億円)、経済全体には320億ポンド(約4.7兆円)の損失を与えるとしている。

    2018年05月16日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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