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    国際

    「孤独」に社会で向き合う英国、その背景とは

    在英ジャーナリスト 小林恭子

    政治環境も後押し

     孤独問題対策委員会の報告書発表から担当大臣の設置までに要した期間は約1か月。あっという間に実現した背景には、政治環境が熟していたという要因があった。

     メイ首相は2016年7月の首相就任当時から、社会的に恵まれない人々を助けたいと述べており、17年1月には精神疾患に悩む人々を支援する施策を発表していた。

     実を言えば首相にとって、孤独問題の解消は有権者、特に孤独に悩む高齢者層の支持を増やすために、手をつけやすい政策の一つだった。昨年6月の総選挙では、介護費用の負担設定を変更しようとして高齢者から総スカンを食らったばかり。失地回復の狙いもあった。「コックス議員の遺志を継ぐ」とすれば、他の議員からの支持も得やすい。

     英国で65歳以上の人口は、16年の時点で約18%に上る(国家統計局調べ)。日本は27.3%(人口推計による)だ。30年後の46年、英国ではこの割合が24.7%に上昇すると推定される。今後、急速に進む高齢化に英政府が危機感を持っていることも、孤独対策を後押しする理由となった。

    孤独は高齢者だけの問題ではない

    • 孤独に悩むのは高齢者だけではない。だれにでも起こりうる問題だ(写真はイメージです)
      孤独に悩むのは高齢者だけではない。だれにでも起こりうる問題だ(写真はイメージです)

     人口約6600万人の英国では、実際どれぐらいの人が孤独に悩んでいるのだろうか。

     これまで孤独と言えば高齢者というイメージがあったが、実はそれだけではない。離婚、家族の死、経済状態の急変など、誰にでも起こりうる出来事が人を孤独に陥れる。

     孤独問題対策委員会の調査では、約900万人の成人が孤独に苦しんでいると推定されている。しかし、その3分の2は、孤独と感じていることを公にしたことはないという。問題が表に出てこないことが問題なのだ。

     子を持つ親の24%が常に孤独を感じ、10代の子供たちの62%が「時々、孤独を感じる」。家族の介護をしている人は、10人のうち8人が「孤立していると感じる」という。このほか、ロンドンに住む難民の58%、75歳以上の3人に1人、身体障がい者の半分が孤独感情を持つという。65歳以上の360万人が、「テレビが唯一の友人」と答えている。

     近年、孤独と感じる人が増えているのかどうかについては、その判断が主観的になる面もあって、専門家によって見方が異なる。

     しかし、50年ほど前は成人した子供は高齢になった親の近くに住む傾向があったが、交通機関の発達や都市圏での雇用の集中によって遠く離れた場所で生活するようになり、核家族化が進んでいる。高等教育の機会増大で、一人暮らしの若者が増えると同時に、IT化の進展で職場でも私生活でも直接、面と向かって話すよりも、ネットを使ったコミュニケーションに依存する傾向が高まっている。

     英国では、こうした現代社会の構造が生み出す孤独が、肥満に次ぐ健康への最大規模のリスクとして受け止められるようになってきた。

     昨年9月、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスが発表した調査によると、慢性的に孤独状態にある人は心身の健康状態が悪化し、医療機関や福祉サービスの利用が増加するという。孤独は死期を早め、認知症の発症リスクも高める。

     もし孤独を防止できれば、5年間で360万ポンド(約5億3000万円)の医療費の節約が可能になるとされる。

     英国では孤独は心の問題のみならず、このように医療問題、経済問題としてとらえられているのだ。

    2018年05月16日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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