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    国際

    米朝首脳会談、北朝鮮のワナにかからないためには

    龍谷大学教授 李相哲
     6月12日にシンガポールで予定されている史上初の米朝首脳会談を前に、双方の駆け引きが始まっている。北朝鮮が今月16日、 金桂官 ( キムケグァン ) 第1外務次官が発表した談話で、米朝首脳会談を再考する姿勢を見せたのに対し、トランプ大統領は北朝鮮が非核化要求に応じれば体制保証をするとの考えを示した。本音では核を手放したくない北朝鮮に、米国はどう対処すればいいのか。龍谷大学の李相哲教授に聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

    米国の思い通りにはならない

    • 5月10日、北朝鮮に解放された米国人3人を出迎えるため、米メリーランド州にあるアンドリューズ空軍基地に到着したボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)。北朝鮮は強硬派のボルトン氏を嫌っているとされる(AP)
      5月10日、北朝鮮に解放された米国人3人を出迎えるため、米メリーランド州にあるアンドリューズ空軍基地に到着したボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)。北朝鮮は強硬派のボルトン氏を嫌っているとされる(AP)

    ――金桂官氏の談話、狙いはどこにあると思うか。

     「今回の談話の狙いは、我々は米国の言う通りにはならないという意思表示であることがまず一つ。それから、一番強硬に映るジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)に、何としても交渉の窓口から外れてもらいたいということがある。

     ボルトン氏はブッシュ(子)政権下で国務次官を務め、北朝鮮の核問題を話し合う6か国協議の米国代表団の一員だったが、2003年7月、ソウルで開かれた講演で、金正日(キムジョンイル)総書記を『暴君』と表現して激しく非難した。これに対し北朝鮮はボルトン氏を『人間のクズ』と呼んで反撃し、『そういうことを言うのなら、我々は会談に臨むつもりはない』と、揺さぶりをかけた。結果的には米国の方が折れて、8月下旬に始まった6か国協議の名簿にボルトン氏の名前はなかった。金桂官氏は、今回も同じことを考えているのではないか」

    ――ここに来て北朝鮮が強気に転じた背景には中国の後ろ盾を得たことも影響しているのか。

     「その通り。北朝鮮にとって中国が重要なのは、米朝首脳会談が決裂、あるいは不調に終わった場合、中国の後ろ盾が重要になるというのが一つ。それから、もっと大事なのが、中国の経済面の支援だ。

     米国は非核化が完全に終わるまでは支援しないと明言している。それが半年先か2年先かは、まだ読めない。米国が少し歩み寄る可能性はあるだろうが、実際に北朝鮮に物資が運び込まれるまでには1年以上かかると思う。その間、どうしのぐかは北朝鮮にとって極めて重要な問題だ。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は建国70年の今年9月9日までに、何らかの“果実”を人民に与えなければならない。

     これは証拠があって、金正恩氏は今年2月、地方の組織にあてて手紙を出している。そこには『第2の苦難の行軍は絶対にない』という内容のことが書かれていた。『苦難の行軍』というのは90年代後半、自然災害などで苦境に陥り300万人とも言われる餓死者が出た時の状況を指す。党中央には、地方の惨状を訴える手紙が寄せられており、金正恩氏の手紙はそれに対する返答だった。

     米国の態度は簡単に変わりそうにはない。そこで金正恩氏が中国に行き、『我々は非核化の目標は持っている。ただ、米国が求めるような急なやり方はできない。その間、中国が何とかしてくれないか』というようなことを習近平(シージンピン)国家主席に言ったはずだ。

     中国からするとありがたい話だ。北朝鮮は一時期、中国から逃げようとした。それが再び中国の方を向いてくれた。北朝鮮の改革・開放を促すとともに、非核化に協力するという、まさに中国が言っていた朝鮮半島問題で積極的な役割を果たすことになるからだ。

     北朝鮮が、まあできないとは思うが、表向き経済を改革する。それを中国が後押しする形で支援する。おそらくは食料の供給や貿易の面で支えていくのだろう。そういう構図ができたので、金正恩氏は安心して米国と向き合うことができる。

     唯一の心配は米朝首脳会談が決裂した場合の米国による軍事攻撃だろうが、韓国は軍事行動に絶対反対だ。韓国と仲良くして平和ムードを演出していけば、米国は攻撃するスキを見つけることはできない。しかも、米朝首脳会談の結果、朝鮮戦争の終戦が宣言されることになれば、米国も簡単には手を出せなくなる」

    2018年05月21日 12時37分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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